右京の瞳が妖女姫をとらえたとき、妖女姫の横に控えていた屍狼丸の左目が光を放った。その光に導かれるように、右京は炎に巻かれる妖から抜け出し、妖女姫のほうへと歩み寄る。
 目の前に立った右京に微笑みかけ、妖女姫は印を結んでいた手をゆっくりと解き、右京の額に左手を、胸の辺りに右手を翳した。陽炎のような右京の身体が揺らぎ、妖女姫の左手から発せられた光が屍狼丸の左目の光と重なって、右京を包み込む。
 右京の身体が完全に光に呑み込まれると、妖女姫はいまだ炎に焼かれながらも右京の魂を取り戻そうともがく妖に向け、再び印を結んだ指先を向けた。

「!」

 危険を察知した妖の動きが止まる。じり、と後退した瞬間、妖女姫の指先から光の矢が、妖の額に刺さっている破魔矢目掛けて飛んだ。

「ぎゃおおぉぉ!」

 光が破魔矢に届いた途端、炎は火柱となって激しく燃え上がった。同時に妖の背後の鏡岩が砕け、中から銀色の龍が姿を現す。

「……凄ぇ……」

 泥だらけで上体を起こした一八が、感心したように呟いた。龍は辺りと一瞥すると、火柱に巻き付き、少しずつ火を消しながら、ゆっくりと天へと昇っていく。そしてその姿が見えなくなる頃には火はすっかり消え、後には黒く炭化した塊に突き刺さった釵子と、あれだけ激しく燃えていたはずの、右京の着物だけが残っていた。
 一八が着物を拾い上げると、ふわりと中から小さな光が現れた。蛍のようなその光は、広綱の周りを一周すると、妖女姫のほうへと泳いでいく。そして屍狼丸の左目の光を受け、妖から抜け出たときと同じ、半透明な右京の姿になった。