右京は妖女姫を睨むと、一瞬で元のおぞましい妖に戻り、踊りかかってきた。妖女姫が刀を振るう。
 広綱は頭を振り、妹の幻影を振り払った。右京はもういないのだ。あれを倒さなければ、右京は救われない。
 強く言い聞かせ、再び矢を構えた広綱は、一気に矢を放った。

「南無八幡大菩薩!」

 広綱の言葉と共に飛んだ矢は、妖の額に突き刺さると同時に火を噴いた。

「ぎゃああおおぉぉぉ!」

 妖の、断末魔の叫びが響く。
 思った以上に矢に気を込めてしまった広綱は、その場に膝をついた。近くの木に手をついて上体を支えるのが精一杯だ。
 霞む視界に必死に目を凝らせば、炎に包まれた妖の姿がぼんやり見える。炎の中で身をよじる影を認めた瞬間、広綱は思わず身を乗り出した。広綱の放った破魔矢が噴いた火に焼かれているのは、紛れもない妹の右京ではないか。

「右京っ……!」

 ともすれば崩れ落ちそうになる身体を必死で奮い立たせ、何とか前に進もうとする。炎の中の右京が差し伸べた手を掴もうと手を伸ばしたとき、妖女姫の凛とした声が響き渡った。不動明王の真言だ。
 印を結んだ妖女姫の周りの空気が変わった。炎を身体に纏わりつかせたままの右京が、ゆっくりと顔を上げる。