宝剣と宝珠。心の臓を食らう神。

「あなたは……」

 広綱の言葉に目だけで笑い、妖女姫は前を向いた。

「昔話はここまで」

 妖刀・屍狼丸を構えた妖女姫の視線の先には、妖が怒りに燃える目で、今にも飛び掛かろうと睨んでいる。所々着物が焦げているが、広綱の式は大した痛手を与えられなかったようだ。

 妖女姫は大きく跳び、重力を利用して着地のままに妖の身体に当てた刀を沈める。妖は絶叫しながらも、鉤爪のある手をすかさず横薙ぎに払った。咄嗟に避けた妖女姫の手から、妖の身体に残った屍狼丸が離れる。

「広綱様、これを」

 いつの間にか近くに来ていた一八が広綱に手渡したのは、ごくありふれた破魔矢だった。

「ちょいと本殿からお借りしました」

「こんなものが、何かの役に立つのか?」

 渡された破魔矢はさすがに本殿に飾られているものだけに立派だが、装飾品然としていて、武器としては全く役に立ちそうにない。もちろん鏃部分も鋭く尖っているわけではない。

「ここは呪いの総本山でやんすよ。他のところよりも断然強い気の場所でやんす。その破魔矢だって、ここでの本殿に飾られているもんなんで、その辺のモンとは訳が違わぁ。今はすでに子の刻だし、広綱様は陰陽師。ここの破魔矢にそれだけの好条件をつけりゃ、立派な呪具になりやんす」

 一八の言わんとしていることはわかるが、周りに強い気が満ちていても、それをどのように使うのか。