ここは京の北、紫野。葬送の地であるこの地に、珠璃堂(しゅりどう)という一つの堂があった。堂といっても寂れてはおらず、それなりの広さを持った、そこそこ立派なものだ。

「気になる話ではあったな」

 小振りだが見事な枯山水の庭を眺めながら、青年ーーー四郎(しろう)は背後に語り掛ける。

「狐憑きの娘たぁ、言い掛かりも甚だしいや。わけのわからないことは、全て狐のせいにしやがる」

 先刻男が四郎に話をしていたときにはいなかったはずの人影が、憮然と答えた。

「狐ね……。確かに、そう簡単に狐が人に憑くとも思えぬのぅ、一八(いっぱち)

 振り向いた四郎は、部屋の隅で不機嫌そうに胡坐をかいている一八に顔を向けた。

「竜雲図に狐憑きか。時期的にも面白い」

「あの旦那は、何も知りゃせんぜ」

 四郎の言葉に、一八はそっぽを向く。

「あん人は絵については自慢ばっかじゃねぇか。そんな野郎が『果ての晦日(つごもり)』なんか知るもんかい」

「したが、娘のほうは何ぞ知っておるのかもしれぬ」

 言いながら腰を浮かせた四郎に続き、一八も立ち上がった。