「……っ!」

 息を呑んだ広綱に、一八は悪戯っぽい笑みを向け、己の尻を見た。

「ありゃ、どうも霊気が強すぎていけねぇ」

 わざと広綱の前で、尻尾を振って見せる。

「一八殿は、狐か……。四郎殿は? 先ほどまでは、おらなんだな。そういえば、肝心の妖女姫がおらぬではないか」

「ご心配にゃ及びませんや。四郎がいれば、姉姫様もおられまさ。わっちはまぁ、見ての通り……」

 揺れる尻尾は、よく見ると一本ではないようだ。

「……九本……。殺生丸……」

 広綱の呟きに、一八は立ち止まり、振り向いた。

「わっちはただの一八でやんす。ま、この名は一と八で九尾の狐って意味でつけたって姉姫様は仰いますがね、実際はきっと、単に姉姫様が読んでた読み物に、たまたま出てきた名ってところでしょ」

「一八殿の名は、妖女姫がつけたのか」

 我ながら、どうでもいいことだと思いながら、広綱は尋ねた。立て続けに起こる出来事に、何か喋っていないと変になってしまいそうだ。

「わっちは大分昔に、半死半生で姉姫様に拾われたんでさ」

 再び一八は歩きだす。灯りを持っているのは広綱だけだが、四郎も一八も暗さなど感じていない様子で歩いている。
 今までのことを考えれば、それももう不思議なことではなかった。