「うひゃあ、凄い霊気ですなぁ。さすが大晦日(おおつごもり)

 鬱蒼と茂る草木に、上を見上げれば天を衝くような巨木が果て無く続く。むせ返るような深い緑の匂いに包まれ、前方から無邪気な一八の声がする。
 広綱が気付いたときには、すでに辺り一面闇の中の、この山の中にいた。

「……一八殿……」

 広綱は手探りで声のする方へと進もうとした。が、いきなり腕を掴まれ、後ろへ引き戻される。

「あまりそっちに行くと落ちる」

 驚いた広綱の耳元で、四郎の声がした。堂を出るときには姿がなかった故、広綱は二重に驚いた。

「おっと、こいつは失礼。広綱様にゃ、不都合でしたね」

 軽い言葉と共に一八が軽く指を鳴らすと、辺りが明るくなった。広綱の目の前で開いた一八の手の上には、小さな狐火が燃えている。

「ま、見てわかる通り、こいつぁ熱くねぇんで。はい」

 相変わらず軽い調子で広綱の手を取り、狐火を手渡す。驚く間もなく自分の手の平に渡された狐火は、一八の言う通り熱さはなく、広綱の周りを照らしてくれた。

「しっかし龍穴のある霊山を選ぶたぁ、ちゃちい妖のくせに考えたもんだな」

 鼻をひくつかせながら先を歩く一八は、落ち着かない様子で飛び歩いている。

「一八、尻尾が出ているぞ」

 広綱の横を歩いていた四郎が、何でもないことのように言う。見ると、一八の尻に、白いふさふさの尻尾が揺れている。