「妹さんの身体をぐちゃぐちゃにするわけじゃねぇですよ」
にこにこと一八が言い、妖女姫はつい、と扇で水面を指した。
「むしろぐちゃぐちゃにしているのは、今入っている妖よ」
広綱は再び水盆に目を落とし、かつて妹だった妖を見た。
「……わかり申した」
広綱は真っ直ぐに妖女姫を見、はっきりとした口調で言った。
「妹の魂を、お救いくだされ」
艶然と微笑んだ妖女姫は、檜扇を閉じると庭のほうへ向けた。
「ならば右京の元へと急ごうかの」
庭には、いつの間にか大きな獣が控えていた。真っ白な体に、金色の目が光っている。姿は狼のようだが、大きさが尋常ではない。
呆気にとられる広綱を尻目に、妖女姫はひらりと獣に飛び乗ると、早く乗れと言わんばかりに顎で後ろを指す。鋭い牙をも持つこの獣に恐ろしげもなく近付き、慣れた風に扱うとは。
「ささ、広綱様、急ぎましょ」
一八に腕を引っ張られたと思った次の瞬間には、広綱は獣の背にいた。すぐに獣が走り出す。
「四郎殿は……」
四郎が見当たらないことに気付いた広綱は、部屋の中を振り向いたが、すでに珠璃堂ははるか彼方に遠ざかっていた。
にこにこと一八が言い、妖女姫はつい、と扇で水面を指した。
「むしろぐちゃぐちゃにしているのは、今入っている妖よ」
広綱は再び水盆に目を落とし、かつて妹だった妖を見た。
「……わかり申した」
広綱は真っ直ぐに妖女姫を見、はっきりとした口調で言った。
「妹の魂を、お救いくだされ」
艶然と微笑んだ妖女姫は、檜扇を閉じると庭のほうへ向けた。
「ならば右京の元へと急ごうかの」
庭には、いつの間にか大きな獣が控えていた。真っ白な体に、金色の目が光っている。姿は狼のようだが、大きさが尋常ではない。
呆気にとられる広綱を尻目に、妖女姫はひらりと獣に飛び乗ると、早く乗れと言わんばかりに顎で後ろを指す。鋭い牙をも持つこの獣に恐ろしげもなく近付き、慣れた風に扱うとは。
「ささ、広綱様、急ぎましょ」
一八に腕を引っ張られたと思った次の瞬間には、広綱は獣の背にいた。すぐに獣が走り出す。
「四郎殿は……」
四郎が見当たらないことに気付いた広綱は、部屋の中を振り向いたが、すでに珠璃堂ははるか彼方に遠ざかっていた。