妖女姫の瞳が、妖しく光った。

「いかにも」

「では……!」

 勢い込んで頭を下げようとした広綱を、妖女姫の扇が遮った。

「したが、ただではやらぬ」

 言われた言葉に、広綱が固まった。妖女姫は檜扇を口元にあて、横目で広綱を見ながら続ける。

「当たり前じゃろう。何の見返りもなく願いを叶えて貰おうなど、都合が良すぎるとは思わぬかえ」

 もっともといえばもっともなことを言われ、広綱は再び唇を噛んだ。好意のみで人を助けてくれるものなど、そうはいないものだ。

「取引でやんす」

 一八が妖女姫に頷き、広綱に向き直った。

「魂を救うことに比べれば、何の難しいこともありゃしません」

 一八は笑顔を向けるが、妖女姫の瞳の暗い輝きが気になる。それでも、他に道はないのだ。
 広綱は心を決め、妖女姫に顔を向けた。

「私は、何をすればいいのですか」

「そなたではない。妹じゃ」

 妖女姫が、こぼれるように笑う。壮絶なまでの美しさだ。そのまま、妖女姫は言葉を続けた。

「右京の、心の臓をいただく」

 赤い唇から出た言葉が、恐怖と共に、ゆっくりと広綱の脳裏に染み込んだ。理解した途端、広綱の身体は前のめりになる。

「人の臓器を食らうのか。おぬし、悪鬼か!」

 声を荒げた広綱は、一八に引っ張られて身体を引いた。

「広綱様、妖女姫のご機嫌は、損ねないほうがよぅございます」

 声を潜めて言う一八は、そのまま畳みかけるように続ける。

「どっちにしろ妹さんはもう死んじまってるんだし、だったら臓器なんて、いらねぇでしょ」