「あなたは、死した者を生き返らせることができるというのか」

 広綱の問いに、妖女姫は面白くもなさそうに視線を動かし、扇を揺らした。

「無理じゃ」

 檜扇を膝の上に置き、素っ気なく言う。

「死にそうなものを永らえるならともかく、死して幾日も経ったものを蘇らせるなど、外法も外法。そんなもの、できたとしても、わらわはせぬわ。第一わらわは今、魂の救済を生業としておる。死した肉に魂を入れても、肉は腐り、魂は永遠に救われぬ。愚かな人間どもは、稀にそういうこともしやるがの」

 妖女姫の言う『助ける』とは、魂の救済ということか。しかしそれこそ、人にはどうともできないことではないのだろうか。人の手の届く世界ではない。

「此度のわらわの仕事は、魔道に堕ちた右京の魂を、本来魂の辿るべき道へと導いてやることじゃ」

 広綱の考えを読んだように、妖女姫はきっぱりと言った。確実に、人にはできないことを。

「このままでは、右京の魂は畜生道に堕ちような。輪廻も叶わず、未来永劫苦しめられよう。……右京の魂を、救いたいか?」

 きっと、この姫にはできるのだろう。真っ直ぐに広綱を見つめる漆黒の瞳は、四郎と同じ、闇の色。神々しさと禍々しさを併せ持つ、不思議な存在。

「広綱様。今からでも、妹さんのためにできることがあるんですよ。死した後も妖に乗っ取られたままじゃあ、魂はいつまで経っても救われねぇ」

 一八が言い、広綱は妖女姫を見た。

「あなたには、右京の魂を救うことができるのですね?」