本堂と奥座敷を繋ぐ渡殿の中ほどで、広綱はいきなり異空間に足を踏み入れたような感覚に襲われた。

「妖女姫様、お客人をお連れしました」

 軽い目眩を覚え、壁に手をついた広綱は、一八の声に顔を上げた。広い座敷の上座には御簾がかかり、その前に四郎が座している。御簾の内から、僅かな衣擦れの音が聞こえた。

「座りゃ。堅苦しい挨拶はいらぬ。そなたのことは、すでにこの者どもより聞いておる故。妹御のこともな」

 御簾内からの声に我に返った広綱は、一八に促され、御簾の前に座った。

「妹……右京といったか、が、結界より出たようじゃのぅ。おぬしも陰陽師の端くれなら、式を飛ばすなりしなかったのかえ」

 声の主とは初対面のはずが、一八も先ほど知ったであろうことまで、まるですべてを見ていたようだ。不思議なことはまだあるが、そもそもこの者たちを疑いだしたらきりがない。諸々のことは隅に追いやり、広綱は当面の問題に集中することにした。

「もちろん、その他にも思いつく限りのあらゆる手段を用いて妹の気を探ったが、とんと行方がわからぬ。どうすれば……」

 拳を握りしめて悔しそうに言う広綱を、妖女姫は冷ややかに見つめた。

「おぬしはまだ、妹が生きておると思っていやるのか」

 イラついたように、ぱしゃんと水の撥ねる音が響く。