足早に珠璃堂を目指していた広綱は、門前に一八の姿を認めるや、一気に距離を詰め、飛び掛からんばかりにまくし立てた。

「大変なことになった。右京が……妹がおらぬ。一刻ほど前に結界が揺らいだと思うたら、離れは空だった。方々探しても見つからぬ。今日はすでに大晦日だ。どうすればいい」

 広綱に詰め寄られ後ずさった一八は、門柱に背を張り付けた。

「まぁ落ち着きなされ。まだ果ての晦日は始まったばかりでやんす」

「このまま今日を迎えたら恐ろしいことになると言ったのは、そなたではないか!」

「だからこうして、お迎えしてるじゃありませんか」

 一八の言葉に、広綱は冷静さを取り戻した。そういえば一八は、広綱の姿が見える前から門前にいたようだ。

「私がここに来ることが、わかっていたというわけか」

「妹御のことは、人の手にゃ負えません。何とかしたいと思うなら、まぁここに来るのが普通でしょう」

 一八に促されるまま堂の中へと入りながら、広綱はしげしげと彼を見た。

「一八殿には、何とかできるということか?」

「わっちじゃのぅて、姉姫様でさ」

 一八は悪戯っぽい笑みを浮かべた。