奥座敷の庭は、表と違い大きな池のある廻遊式庭園で、その池は鏡のように周りの景色を映しているだけで、まったく底らしきものは見えない。そのぴくりとも動かない水面の上を、いつの間にか蛍にしては大きな光が、ふわふわ漂っている。
 妖女姫が手招きすると、光は吸い寄せられるように部屋の中に入って来、水盆の上に静止した。盆の水面に一人の老人が映る。
 そのまま妖女姫が何事か唱えた途端、突然水盆の水が波立ち、光を吞み込んだ。無色透明だった水は、血の色に変わっている。そしてその水盆の中には、先ほどまではなかった白っぽい拳大の塊が浮かんでいた。

 妖女姫は立ち上がると、いつの間にか元のように浮かんでいた光を庭の池へと誘い、渡殿で光が池に吸い込まれるのを見送ると、堂の表に顔を向けた。

「客じゃ」

さっと裾を捌いて元の位置に座ると、水盆の中の塊を手に取り、一八に言った。

「わらわは食事にする故、そなたは客を連れてきやれ」