瞬きをした次の瞬間、ルイの姿は視界から消えた。

夢のような時間だった。

私は恋をしていた。

それなのに、別れて寂しいはずなのに、寂しくないって不思議な気がする……って、私、ルイのことを覚えてる? 

記憶をワザと残したの?

「真緒!」

その声に振り返った。

「あ……。久しぶり」

「おま……なんかさ、お前今すっごいイケメンと一緒にいなかった?」

数ヶ月前に別れたヒト。

黒い目と黒い髪はどこから見たって完璧な日本人で、ルイの面影なんてどこにもない。

「気のせいじゃない?」

そう言った私に、彼は首をかしげブツブツと何かを口ごもっている。

「なんの用?」

「……いや、別に。たまたま見かけたから……」

だけどこの人の首筋にも、ルイと同じほくろがある。

「ねぇ、私たち、なんで別れたんだっけ」

「そんなの、もう忘れたよ」

ルイは私の記憶を消さずに帰った。

私に忘れてほしくなかったのかもしれない。

私も彼を忘れたいとは思わない。

「やり直す?」

「そうしてくれると、俺はうれしい」

彼の腕が私を包む。

頬に触れ、唇が重なった。

自然と笑みがこぼれる。

「なにがそんなにおかしいんだよ」

「別に」

この人もルイみたいに、いや、博士みたいに必死だったのかな?

「お腹空いた。一緒にご飯食べよう」

手をつなぐ。

その手はしっかりと握り返された。

どうか生まれ変わった未来の彼女が、博士との幸せな日々を取り戻せますように。

そう祈って私たちは歩き出した。