1. Uguisu (1990)

 夕焼けがキャンパス中に舞うイチョウを、オレンジ色に染め始める頃、本条 架(かける)は、左手にレポートを握りしめ、全速力で理学部棟を目指していた。

 右手に持っていたスマートフォンに目をやると、PM18:28。

「本当にやばい、単位落とす‼」

 本日、10月21日午後6時30分は、中間レポートの〆切である。

 5分前までPC教室でレポートを仕上げていた彼は、移動時間を計算していなかったようで、このように理学部棟から300メートルも離れた文系キャンパスから全力疾走をしているのだ。

「よし‼」

 理学部棟に入り、エレベータに乗って、提出先の生物学研究室がある5Fのボタンを連打する。

「もう、早くしろよ、、、」

 スマートフォンの画面には、PM18:29と表示されている。