初日に俺を「背が高いだけが取り柄」と紹介したことを有り難く思えと? まさか、その後の展開を読んでいたとでも言うのか?

「それ、本気で言ってるのか?」

呆れる俺に、いちごは「どうかな」とニヤリと笑った。そして、いったん背を向けてから、ちらりと振り返った。

「でも、いい感じかもね」

――え?

「その怖い顔をどうにかすればね」

訊き返す間もなく遠ざかるいちごの後ろ姿。声は小さかったし、聞き間違えたのかも知れない。でも……。

「あれ?」

後ろから聞こえた声。はっと振り返ると大鷹のきれいな立ち姿。

「まだ息が切れてるの? 運動部なのに」

からかう口調が妙に嬉しい……ような気がするだけだ!

女子にからかわれたことなんて、今までだってあったはずだ。こんなのは特別じゃないし、大鷹だって深い意味があって言っているわけじゃない。そんなことを考えること自体、不必要だ。

「実はトレーニングのために足首に重りを巻いてるんだ」
「えっ? うそっ?」

驚いた彼女が俺の足元を見た。ほら見ろ! 俺の方が上手くからかったぞ!

「うん。うそだよ」
「やだもう。あははは」

一緒に教室へと歩きながら、いちごの声が頭の隅から響いてくる。「いい感じかもね」「その怖い顔をどうにかすればね」――。

たしかに俺は目つきが鋭いと言われたことはある。目尻が上がり気味だからだ。それに、女子に愛想良くしたりもしない。だけど。

大鷹は怖がっていない。

それでいいじゃないか。