俺も酒はそれほど弱い方ではないとは思っているが、砂夜があまりにも強過ぎるから、過去に何度も潰されてしまっている。
 何となく、今日もとことん付き合わされ、また、砂夜に醜態を晒す羽目になりそうな予感がする。

 俺は一杯目のビールを半分ほど飲んでから、海老の天ぷらに箸を伸ばした。
 温かい天つゆに付けて口に運ぶと、サクリと良い音が響き、旨みが口いっぱいに広がる。

「私も食べよっと!」

 黙々と箸を進める俺を見て、砂夜もやっとで食欲を満たす気になったらしい。
 小皿に醤油を垂らし、箸でマグロの刺身にワサビを載せ、それを醤油に付けてから口に入れていた。

「んーっ!」

 どうやら、ワサビがまともに効いたようだ。咀嚼しながら、顔をしかめている。

「――何よ?」

 表情がくるくる変わる砂夜を観察していたら、見事に目が合ってしまった。

 俺は口の端を上げながら、「別に」と短く答え、小鉢に入っているほうれん草とシラスの和え物を箸で摘まんだ。

「何かムカつくんだけど、その不敵な笑い方」

 ビールを喉に流し込んでから、砂夜は唇を尖らせながら、俺を恨めしげに上目で睨んだ。

「お前が面白過ぎるからだよ」

 俺も砂夜に倣うようにビールを一気に呷った。
 ようやくコップが空になったので、二杯目を注ごうと瓶に手を伸ばしたら、すかさず砂夜に取り上げられてしまった。

「手酌なんてしたら出世しないよ、お兄さん?」

 気持ち悪いほどに満面の笑みを浮かべた砂夜は、俺がコップを差し出す前に、強引に琥珀の液体を注いでゆく。
 コップ七分目まで入ったところでビールがなくなった。

「すいませーん! ビール一本お願いしまーす!」

 砂夜は空になった瓶を右手で振りながら、大声で追加注文を申し付けていた。

 おいおい、ここは居酒屋じゃねえんだから、と俺は心底突っ込みを入れたかったが、酒が入って気分が良くなっているであろう砂夜に変に口出しするのもどうかと思い、あえて黙っていた。