しばらくしてから、注文を取りに来た女性店員と別の女性店員がふたりがかりで、瓶ビール一本に、料理一式が載った盆とコップをそれぞれふたつずつ持って来た。

 よく見ると、刺身と天ぷら、茶碗蒸しと小鉢、さらには蕎麦と炊き込みご飯まであって、かなりの量だ。
 しかも、それぞれの料理は、目でも楽しめるようにと意識しているのか、その辺の居酒屋と違い、上品に美しく盛り付けられている。

 ――いったいいくらするんだ……?

 値段がどうしても気になった俺は、お品書きに手を伸ばそうとする。
 が、それを砂夜は目聡く見付け、素早く俺の腕を掴んだ。
 俺よりも細い腕をしているくせに、握力はかなりなものだ。

「値段を調べようなんて無粋な真似はしないこと」

 砂夜はニッコリと、しかし、有無を唱えさせぬ語調で俺に言った。

 俺は黙って頷いた。結局、砂夜には敵わない。

「ほら、コップを持った持った!」

 砂夜の手がようやく離れてから、俺は促されるまま、コップを手にした。

 砂夜はそれを見届けてから、先ほどまで俺の腕を握っていた右手でビール瓶を持ち、琥珀色の液体を注いでゆく。
 すんでのところで泡が溢れそうになったが、砂夜は器用に注ぐのをやめた。

「今度は俺に貸せ」

 俺は半ば強引に砂夜からビール瓶を取り上げた。

 砂夜は苦笑しつつ、それでも素直にコップを持ち直し、俺に傾けてくる。

 俺の注ぎ方がイマイチだったのか、砂夜が注いでくれたのと違い、泡は気持ち程度しか入らなかった。

「そんじゃ改めて、誕生日おめでとー、アーンド、メリークリスマース!」

 砂夜の号令と共に、互いのコップが、カチンと乾いた音を立てながらぶつかり合う。

 それにしても、いくらイヴとはいえ、和食屋で『メリークリスマス』はあまりにも浮き過ぎている。

 不意に、カウンターの方を一瞥すると、先ほどの女性店員ふたりが小首を傾げる仕草をしながらこちらを見ていた。
 でも、俺と目が合ったとたん、ばつが悪そうに慌てて顔を逸らせてしまった。

 砂夜は俺と女性店員がそんなやり取りをしていることも知らず、コップのビールを一気に呷り、すでに二杯目を手酌で注いでいた。

「おい、空きっ腹にいきなり飲んだら悪酔いしちまうぞ?」

 俺が忠告しても、砂夜は、「平気平気!」と笑っている。

「私は今まで、酒に飲まれたことなんて一度だってないんだから。それより、宮崎の方が先に潰れちゃうんじゃない?」

「よけいなお世話だ!」

 そう言ったものの、砂夜の指摘は見事に的を射ている。