Love forever

「――信じてないね?」

 信じる信じない以前の問題だろ、とは言えなかった。
 口を開こうとしたら、女に鋭い視線を向けられてしまったからだ。

 女には、口を噤ませてしまうほどの眼力が備わっている。
 天使よりも、むしろ、〈魔物〉と名乗られた方が納得出来る。

「私はれっきとした〈天使〉だよっ!」

 自称〈天使〉は、さらに眉を吊り上げ、声を荒らげた。
 もしかしてこの女、他人の心の中が読めるのか。

「人の心を透かし見るなんて朝飯前だよ! てか、〈魔物〉だなんてずいぶんな言い方じゃないか! こーんな麗しい容貌を持った魔物がどこにいるってんだいっ? ええっ?」

 今にも噛み付きそうに、女は俺に顔をギリギリまで近付けてくる。

 俺はベンチに腰かけたまま、それでも、何とか女から逃れようと仰け反った。

「――すいません……」

 ここはもう、謝るしかない。
 非常に不本意ではあるが、これ以上、女に詰め寄られては堪ったものではない。

 俺の謝罪に女は満足したのか、ようやく離れてくれた。
 だが、苦虫を噛み潰したような表情に変わりはない。

「とりあえず話を戻そうか」

 女は左手を腰に当てた姿勢で、わざとらしく咳払いをひとつした。

「あんたさっき、強く想ってただろ? 『もし、奇跡を起こしてくれるのなら、あの瞬間に戻してほしい』って。
 あの瞬間――つまり、昨年の今日だね? そいつの送り主が死んでしまう二時間前」

 女は淡々と語ると、俺の手に握られているジッポーに向けて顎をしゃくった。

 女の言葉に、俺はもう、いちいち驚くことはなくなった。
 天使だろうと魔物だろうと、とにかく、この女は俺の全てを見通している。
 現在だけではない、過去のことも全て。

「――俺が、あいつを殺した……」

 ジッポーに視線を落としながら、俺は今まで誰にも言えなかった本音を漏らした。


 時は、昨年の十二月二十四日に遡る――