長い時をかけて、どちらからともなく唇が離れた。

「――そろそろ行かないと……」

 砂夜が立ち上がろうとするのを、俺は、咄嗟に腕を掴んで引き止めた。

「――あの時と進歩ないよ、宮崎……」

 困ったように、砂夜が苦笑いする。
 多分、今の俺は今にも泣き出してしまいそうな顔をしているに違いない。

「私は見守ってる。宮崎のことをずっと……。姿は見えなくても、私はちゃんと、宮崎の側にいるから。だから心配しないで」

 砂夜は一度、その場に屈み込んだ。
 何をするのかと思ったら、落ちたままになっていたジッポー入りの小箱を拾い上げ、俺の手に握らせた。

「これも、捨てる気がないならちゃんと使ってやってよ。箱にしまいっ放しじゃ、ただの宝の持ち腐れだよ?」

 特注で文字入れしてもらって高く付いたんだから、と、最後に付け足した。

 俺は再び渡されたジッポーを見つめ、〈Love forever〉の刻印を親指で擦る。

「強く生きな」

 砂夜は俺の手をそっと解き、身体をふわりと宙に浮かせる。
 と、背中から、一対の翼が姿を現した。

 俺を振り返ることもなく、強気な天使は星空に向かって羽ばたいてゆく。

 砂夜の姿が完全に見えなくなるまで、そう時間はかからなかった。
 砂夜は今度こそ、俺から離れて行ってしまった。

 残されたのは、ジッポーと手紙だけだった。

「――Love forever……」

 俺はひとりごちると、初めて、ジッポーを点火させた。
 カシャリと音が鳴り、橙色の炎が、風に煽られながら揺らめく。

 その時、目の前に一粒の欠片がポツリと落ちてきた。

 俺は夜空を仰いだ。
 星が瞬く中、生まれたての雪が、ひとつ、またひとつと舞い降りる。

 まさかとは思った。
 けれども、偶然にしては出来過ぎている。

「――砂夜……?」

 一度も本人に呼んだことのない下の名前で問いかけるが、返事は戻ってこない。

「俺への誕生日とクリスマスプレゼントってトコか?」

 ついさっきまで感じていた哀しみは嘘のように、俺の心に、温かな気持ちが広がっていた。

 俺はジッポーに向けて、白い息を吹きかける。
 ケーキはないけれど、ささやかな蝋燭代わりだ。

 ◆◇◆◇

 砂夜、お前は、時間は戻せない、って言ってた。
 けど、生まれ変わりだったらありだよな?
 俺とお前、縁があるのなら、来世では一緒に幸せになろう。
 その時は、俺からお前に言ってやるよ。

 永遠に、お前を愛してる――

[Love forever-End]