俺はやはり、呆然としたまま、ゆっくりと首を縦に振る。
 まさか、こんな所で砂夜と再会するとは夢にも思わなかった。

「〈天使〉なんてガラじゃないでしょ?」

 つい先ほどまで、『こーんな麗しい容貌を持った魔物がどこにいるってんだいっ?』などと踏ん反り返っていたのが嘘のように、砂夜は照れ臭そうに頬を指先でポリポリと掻いている。

「ほんとは、この姿のままで宮崎の前に出るつもりだったんだけど……、いきなり出たら、宮崎が怯えて逃げちゃうんじゃないかって思って、全く違う姿に化けてみた。でも、どっちにしても脅かしちゃったのには変わりなかったみたいだね」

 悪戯っぽく笑う砂夜に、俺もようやく、「卑怯じゃねえか」と苦笑いを浮かべるだけの余裕が生まれた。

「けど、どうして天使なんだ? 幽霊として出てくるってんならまだしも……」

「なにそれ? だったら私に化けて出てきてほしかったわけ?」

「いや、そうじゃなくて……」

 口調は俺の前に出てきた時よりはソフトになっていたが、どちらにしても、俺を黙らせてしまうほどの気の強さは、生前と全く変わっていない。

 どうしたものかと頭を抱えていると、砂夜からクスクスと忍び笑いが漏れてきた。

「ほんと、宮崎って相変わらずからかい甲斐があるわ」

 砂夜は笑みはそのままで、俺の隣に腰を下ろした。

「宮崎と別れてから、私は、ただひたすら歩いてた。どんなに力んでも、涙は止まるどころか、どんどんと溢れてくるんだもん。凄く困っちゃった。
 泣いて、ずっと泣いて、だんだんと体力も消耗されてきちゃったんだね。すっかり注意力がなくなってて、気付いたら……、自分のすぐ目の前に、眩しい光が猛スピードで迫ってた……」

 ここまで言うと、砂夜の表情がわずかに曇った。

 考えるまでもない。
 それからすぐ、砂夜の生命の灯は消えてしまったのだ。
 ほんの数秒という、一瞬の時間で。