「――永瀬はきっと、俺を今でも恨んでる……」

 俺は相変わらず、公園のベンチに座ったまま、砂夜から贈られたジッポーを見つめ続けた。

 自称〈天使〉も、先ほどまでの剣幕からは想像出来ないほど、神妙な顔付きで俺を見下ろしている。

「けど、俺はいい加減な気持ちを永瀬に伝えることも出来なかった……。永瀬が、あまりにも真っ直ぐに俺を見つめていたから、なおさら……。
 最期に見た永瀬の涙も、未だに忘れられない……。俺の心に突き刺さって、ずっと離れな……」

 全てを言い終える間もなく、俺は嗚咽を漏らした。

 仮通夜の時だけではなく、本通夜の時も、葬儀の時も、火葬の時も全く泣けなかったのに、今になって、涙が止めどなく零れ落ちてゆく。

 砂夜がこの世から消えてしまってから気付いた想い。
 俺にとって、砂夜がこれほどまでに大きな存在だったとは、考えもしなかった。

 と、その時、俯きながら涙を流す俺を、仄かな温もりが包み込んできた。

 自称〈天使〉に、抱き締められていた。まるで、我が子を慈しむように。

「――恨むわけ、ないじゃない……」

 自称〈天使〉の声が、穏やかな川のせせらぎのように、ゆっくりと流れ込んでくる。

「私は、ずっとあなたを見てた。私のために、苦しみ続けてきた姿を……」

 俺はハッとして、涙で濡れた顔を上げた。

 そこには、金髪と蒼い瞳を持つ天使の姿はなく、代わりに、肩より長めの黒髪に、茶味を帯びた双眸の女が、穏やかな笑みを湛えながら立っていた。

 俺は声を発するのも忘れ、瞠目したまま女を見つめる。

「ビックリした?」

 女は肩を竦めながら、俺に訊ねてきた。