『――宮崎君、落ち着いて聴いてね?』

 ようやく意を決したのか、倉田さんが口を開いた。

『――砂夜……、死んじゃった……』

 一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。

 俺は呼吸を整えると、「もう一度言ってくれませんか?」と訊いた。

『――だから……、砂夜が死んだ、って……』

 何度も言わせないで、というニュアンスを籠めて、倉田さんは繰り返す。

 俺の中で、何かが崩壊した。

 倉田さんは冗談を言っている。そう思いたかった。
 しかし、彼女はつまらない嘘は吐かない人だ。
 ましてや、人の死を軽々しく口にするなんてことは絶対にあり得ない。

『――宮崎君……?』

 俺からの反応がなくなったことに、今度は倉田さんの方が気になったらしい。
 電話の向こうから、恐る恐るといった感じで俺に呼びかけてきた。

「――聴こえてます……」

 辛うじて口にしたが、自分でも、声が掠れ、震えているのが分かった。

 恐らく、倉田さんにも俺の動揺は伝わったはずだ。
 倉田さんは心配そうに、けれども、気丈に続けた。

『明日、ごく近しい身内だけで仮通夜をやって、明後日に本通夜、明々後日に葬儀と火葬をするそうよ。宮崎君、砂夜とは凄く仲が良かったし、顔を見せてあげて。砂夜もきっと喜ぶから……』

「――分かりました……」

 倉田さんの言葉に、俺はやはり、上の空で答える。

 最後に、『それじゃあね』と別れの挨拶をされて通話が途切れてからも、携帯を耳から放せなかった。

 右手には、変わらずにジッポーが握られている。
 ずしりとした重みが、俺の心に突き刺さった。