何も言えなくなった俺に、砂夜は眉根を寄せながら続けた。

「私はずっと、宮崎が好きだった。あんたに出逢うまでは、異性になんてそんなに興味が湧かなかったけど、宮崎だけは、一緒にいるだけで嬉しくて楽しくて、幸せだった。
 だから言えなかった……。宮崎は……、私を〈女〉として見てなかったのにも気付いてたから……」

 そこまで言うと、砂夜は俺から手を放し、肩からかけていたバッグからおもむろに何かを取り出した。

 出てきたのは、手の平に埋まりそうなほど小さな白い箱だった。

「受け取って……。この中に、私の精いっぱいの気持ちが入ってるから……」

 あまりにも急な告白に困惑している俺の手に、砂夜が箱を包み込んできた。

「――ごめん……」

 やっとの思いで出たのは、謝罪の言葉だった。
 自分でも、何故、そんなことを言ってしまったのか全く分からなかった。

 砂夜はこれをどう受け止めたのだろう。
 一瞬、わずかに瞳を揺らし、けれどもすぐに、いつものように満面の笑みを浮かべた。

「別に謝ることなんてないって! てか、あんたを困らせたのは私なんだから!」

 砂夜は踵を返し、俺に背を向けた。

「悪いけど私、先に帰るわ。あ、迷惑だと思ってんなら、それ、捨てちゃって」

 振り返ることなく、砂夜が、一歩、また一歩と、俺から離れてゆく。

 俺は咄嗟に、砂夜の手首を掴んだ。

 砂夜はこっちを見た。
 笑顔はそのままで――頬には、一筋の涙が伝っていた。

「お願いだから……、追い駆けて来ないで……」

 俺の手をそっと解くと、砂夜は今度は、足早に俺の元を去ってしまった。

 けれども、砂夜を追う気力はその時の俺にはなかった。
 ただ、その場に立ち尽くしたまま、空を仰ぎ見る。

 辺りに広がる満天の星空、そして、白銀色の雪の結晶が、フワリと舞い降りてきた。