十二月二十四日、クリスマスイヴ。
 辺りの風景はその名の通り、クリスマス一色となる。

 煌びやかに飾り立てられる装飾、エンドレスで流れ続ける定番のクリスマスソング、互いの手を取り合い、寄り添うように過ぎ行く男女の若いカップル――

 何もかもが浮かれている街中を、俺はただ、黙々と歩き続ける。

 もちろん、ひとりだけでいるのは俺ばかりではない。
 けれども、心なしかカップル達の視線が痛い。
 思い過ごしかも知れないが、〈若いくせに恋人の一人もいない淋しい男〉、などと密かに笑われているような気がした。

 ――ひとりで悪かったな……

 無性に腹が立った俺は、一組のカップルと擦れ違いざま、冷ややかな視線を投げ付ける。
 けれど、カップルは俺に睨まれたことに気付く様子もなく、暑苦しいまでにイチャイチャを繰り返している。

 誰からも相手にされない自分。
 心の底から溜め息が漏れた。

 本当に、俺はいったい何をしてるんだ。
 よくよく考えてみたら、勝手にイライラして、幸せ全開な周りに八つ当たりしているだけじゃないか。

 ――俺はもう、〈幸せ〉になんてなれねえんだから……

 俺は爪痕が残りそうなほどに強く拳を握り締め、足を止めた。
 夜空を仰ぐと、星が辺り一面に散りばめられている。
 美しくて、けれども、あの時のことを彷彿させ、胸が酷く締め付けられる。

 と、俺の右腕に、強い衝撃が走った。
 ハッとして地上に視線を戻すと、女子高生らしき少女と目が合った。
 彼女は舌打ちしながら俺をギロリと睨んだ。
 そして、一緒にいた女友達と、「何あいつ。チョーうぜえ!」、「つうか邪魔だし!」などと、わざとらしく大声で言い合っていた。

 彼女達の無遠慮な態度に、俺はまた苛立ちが募ったが、言ってることはもっともだから返す言葉など見付かるはずもない。
 同時に、彼女達のお陰で、いつまでもこんな所をさ迷っていても仕方ないと改めて思えた。
 言い方はともかく、感謝すべきかもしれない。