兄妹とは知らずに出逢った、ハルヒトとトキネ。
 しかし、その偶然の出逢いは、残酷過ぎる運命を突き付けるための必然だったのだろうか。


『――運命とは、非常に残酷なものです……』


 初めて遥人がトキネと出逢った時も、夢の中でも、トキネは言っていた。

 互いを想い、慈しみ合う気持ちは同じ。
 それなのに、運命には逆らえずに引き裂かれてしまった。

「――わたくしは……」

 遥人に全身を預ける格好で、トキネは静かに続けた。

「ハルヒトさまと最後の逢瀬のあと、間もなく永遠の眠りに就きました。ハルヒトさまと結ばれることが叶わないと知り、わたくしはもう、生きる意味さえ失ってしまったのです……」

 トキネの肩が、小さく震え出した。
 途切れがちに嗚咽も聴こえてくる。

 トキネに、どんな最期を迎えたかなど訊けない。
 しかし、生きる意味さえ失ってしまった、という言葉から、トキネは自ら命を絶ったのだと察した。
 ハルヒトと出逢いを果たした、この桜の下で――

 どんな理由であれ、トキネは〈自害〉という大罪を犯した。
 恐らく、これからも生まれ変わることは叶わないだろう。

(それでも、生まれ変われることを信じてるのか……?)

 初めて逢った時、トキネは遥人に、今度こそ添い遂げられるように、と言っていた。

 出来ることなら、トキネの願いを叶えたい。
 だが、遥人はただの人間であまりにも無力だ。
 ただ、トキネを強く抱き締めてあげることが精いっぱいだった。

「わたくし、今、最高に幸せです」

 遥人の胸に顔を埋めながら、消え入るような声でトキネが言う。

「本当は不安で堪りませんでした。わたくしは、あなたを一目見て、ハルヒトさまだとすぐに察しましたが、あなたはずっと、わたくしを想い出して下さらないのではないかと……。いえ、想い出していなかったとしても良いのです。こうして、ハルヒトさまの温もりを感じられるだけで……」

「――俺は、〈ハルヒト〉じゃないよ」

 遥人は思わず口にした。

 トキネが、弾かれたように顔を上げる。
 涙で濡れたつぶらな双眸を真っ直ぐに向け、不思議そうに首を傾げた。

 トキネにまともに見つめられた遥人は、微苦笑を浮かべる。