「こんな所まで呼び出して、いったい何のつもりですか?」

 そう青年に訊ねるトキネの口調からは、遥人が知っている穏やかさが微塵も感じられない。
 トキネは相変わらず、青年に険しい視線を投げかけながら、なおも続ける。

「わたくしはもう、あなたとは逢わないと申したはず。わたくしとあなたがこうして逢うことで、周りを傷付け、苦しめてしまう。それはあなたが一番お分かりのはずでしょう?」

「なら、どうしてそなたはわたしの呼びかけに応じた? 届けた文を読まず、いや、読んだとしても黙殺することだって出来たはずであろう?」

「それは……」

 トキネは唇を強く噛み締め、青年の真っ直ぐな視線から逃れようと俯く。

 青年が、一歩、また一歩とトキネに近付く。
 そして、彼女の前で立ち止まると、華奢な身体をすっぽりと包み込んだ。

「すまない……」

 青年から、謝罪が紡がれた。

「わたしはそなたを愛している。その想いは今でも決して変わらない。されど、そなたを伴侶にすることは出来ぬのだ……」


 伴侶にすることが出来ぬ――


 遥人は青年の言葉を訝しく思い、首を捻る。
 だが、その理由はすぐに分かり、同時に衝撃を受けることとなる。

「――何故、そなたとわたしは兄と妹なのか……」

(兄と、妹……?)

 一瞬、耳を疑った。
 しかし、青年は確かに、自分とトキネを『兄と妹』なのだと言った。

 遥人の中に緊張が走った。
 ふたりのやり取りをジッと見据えたまま、唾をゴクリと飲み込む。

「兄妹でなかったら、そなたをここまで苦しませなかったであろうに……。年老いて死ぬまでずっと、そなたと添い遂げられたであろうに……」