「わたくしのことを忘れてしまっても、あなたは昔のあなたのままです。優しいのに、本当に不器用で……」

「見た目は?」

 頭で考えるよりも先に、遥人はごく自然に訊ねていた。

 トキネは相変わらず、微笑みを浮かべている。

「そうですね……、見た目も似ていらっしゃいます。ですが、少し違いはあります。以前のあなたは精悍なお姿でしたから」

 トキネに悪気は全くないのだろう。
 だが、これではまるで、遥人が痩せっぽちで貧弱な男みたいだと言われているような気がしてならない。

 トキネの言う昔の〈自分〉に、何となく劣等感を覚える。
 生まれ変わりとか、そんなものには興味がなかったはずなのに、昔の〈自分〉ではなく、今の〈自分〉をトキネに見てほしいと思ってしまう。

「今の俺じゃ不満?」

 つい、本音が口を突いた。
 遥人は、しまった、と思ったが、一度出てしまった言葉は元に戻せるはずがない。

 トキネは呆気に取られたように目をパチクリさせる。
 だが、それも一瞬のことで、着物の袖で口元を押さえ、鈴を転がしたように軽やかに笑った。

「不満なんてございませんわ」

 トキネは続ける。

「どんな姿であろうと、あなたはあなたですもの。それに、先ほども申したではございませんか。変わっていない、って」

「けど、昔の俺はもっと逞しかったんだろ?」

「当然ですわ。昔のあなたはとても活発で、あちらこちら駆け巡っていたのですから。
 それにしても、どうしてそんなに昔のあなたに拘るのですか?」

 不思議そうに訊ねられた遥人は、「拘ってるのはトキネじゃねえか?」と言おうとしたが、やめた。