なんだこんなところに居たのか。
ちょっと意外な気もしたけど、あのひと本人とも限らないよな、と考えなおす。
確かにあの人っぽい感じもするけど、こんなにアタマの悪い文章しか書けないひとだったか、違和感も拭いきれない。本だって結構読んでいたはずだし。
一緒に過ごした日々を思い返そうとしてみたけど、あんまり上手くいかない。
色々と考えを廻らせているうちに、ひょっとしたら池宮佐知の仕業かもしれないとも思えてきた。
確かに彼女が書いたなら頷けなくもない。
もとからこういうことが好きな女だったし、あのひとの親しい友達でもあったから、あのひとと似たような好み、言葉のチョイスを持っていても不思議ではない。
ただそう考えると今度は、何で池宮はあのひとに成りすましているのか、それはそれで気になってくる。
とりとめもなくぐるぐると考えているうちに、ひょっとしたらもうあのひとは死んでしまっているのじゃないか。
そんな風な思いがふと頭に浮かんだ。

もっともあのひとは生命力が強そうでワガママだったから、きっとアタマがおかしくなっても絶対自ら死を選んだりすることはしないだろうって云う確信も、依然として根強く心の隅にある。
とすれば、これは何かのワナなんだろうか。