「やよひ先輩、アイス食べていきません?」

 かばんを手にとった猫間くんが声をかけてくる。

「いいわよ。いきましょう」

 猫間くんは「やった」と笑顔を浮かべた。

 猫間くんは秋でも冬でも毎日欠かさずアイスを食べる。らしい。猫間くんが入部してからまだ半年。彼の冬をわたしはまだ知らない。

 部室に施錠し、廊下を並んで歩く。

「あの、猫間くん!」

 不意に声をかけられた。

 廊下の向こうに女子が立っている。

 上靴の色からして一年生。華やかな子だ。目が大きく、高いところで括られた髪にはピンクのシュシュが巻かれている。

 その子は猫間くんの隣に立つわたしをにらみつけ、「あの」と低い声を出した。

「あ、えっと、ね、猫間くん。わたし、さ、先帰るから。じゃあ!」

 猫間くんの返事も聞かず、わたしは逃げ出した。

 いやだってあの子すごいにらむし。

 しかし、ただではすまさない。

 階段の陰にかくれ、耳をそばだてる。

 二人の会話は、ぼそぼそとしか聞こえない。

 しかし一際強く発せられた一言だけは、聞き逃しようがなかった。

「ひとめ惚れでした!」