髪の毛を切ってから、女子からの呼び出しが増えた。内容はいつも好きですと言われるだけ。正直困る。好きだからなんなのか言ってもらわないとこちらもどう対応するべきか迷う。
エマに相談すると「写真とか一緒に撮ってあげれば?」なんて言う。
女子だからとはいえ、名も知らない子と写真を撮るのは少し気が引ける。どうしたものか。
「そういえば、エマ、月城にいつ告るの?」
ふいに思った。前に告白するとか言ってたのに、もう何ヶ月か経ってる。
「うーん、いつがいいかな?」
そう悩むエマはまさに恋する乙女で可愛らしかった。
「今日。」
「え?」
「だから今日の放課後告っちゃいなって」
そういうとエマは心の準備が、なんて言って慌てている。なぜかその姿は猫のように見えた。可愛い。
「手紙でもなんでもいいから放課後教室でって伝えなよ。私そこらへんの空き教室にいるから。大丈夫、聞かないから。」
「なんで、今日告白する前提なのよ。」
と、顔を少し赤らめて反抗してくる。
でも未だに、エマが告る相手が私だったらなって醜い感情が私の中で渦を巻く。
けれど、それは絶対バレまいと泣きそうになったりしたら、エマの元から離れることを心がけた。その度、エマはどうしたの、といって私の元に駆けてくる。まるで小動物のように見えて撫でたくなる。
「今日か。宗くん空いてるのかな。」
「聞いてみなきゃわからないよそんなこと。」
「聞く・・・・・・のか。うん、聞こう。花恋もついてきてね。」
「わかったわかった。」

***

教室で月城が一人になるタイミングを待つ。月城は女子なら一目惚れしかねない容姿をしている。それに性格もよい。だから女子が月城の近くにいないことはない。
エマに女子がいても話しかけちゃえばいいじゃんというと、「絶対無理ダメ」と言われてしまう。
チャイムが鳴って、号令をしてエマのところに行こうとするとエマが急いで私の元へ来た。
「ねぇ、花恋。これ宗くんが私に。」
小さな紙切れに書いてあったことを見て私は嬉しさ半分悲しさ半分になった。

放課後教室で一人で残っていてほしい。

紙切れ一枚に大喜びをしているエマを前に私は何も言えなくなった。これがまさに、複雑っていう感情なんだと思った。

***

空き教室までの廊下を一人静かに歩く。頭の中はエマと月城の事で埋め尽くされている。
きっと月城が告白して、エマがそれにいいよと言って、エマは私に報告をすると、したくもない予想が自然とできてしまう。
窓の外を見れば極一部の部活が先生に怒られているのか俯いて集まっている。また、違う一部の部活は声を張って元気そうに部活に励んでいる。
入りかけの日が窓から少し暗い教室に茜色で照らす。黒板、椅子、机は茜色に染まって、机の上に置いてある私の携帯もまた茜色に染っている。
いつも少し俯けば垂れてくる髪の毛が無いことに今更違和感を覚える。
いつも髪の毛を手でクルクルとする癖があるとエマに言われていた。けれど、その髪の毛がないことにも今更違和感を覚える。
今、エマは月城に告白されているのだろうか。顔を赤くしたら、夕日のせいだと言っていたりするのだろうか。
エマと月城のことを考えると涙が溢れてしまいそうで上を向く。それでも涙が溢れそうなのが止まらない。
必死に涙を堪えてる時を狙っているように携帯の通知が教室に鳴り響く。
誰からの通知かなんてすぐにわかった。
携帯の電源を入れて通知を確認する。

▼花恋、宗くんに告白されちゃった! 迷わずOKしちゃったよ! 今日は宗くんと帰るね。待っててくれてありがとう。ごめんね。

窓の外の夕日を見つめる。窓越しから見た夕日は花火のように散っているように見えた。しだいに花火のように散っているように見える夕日がぼやけていく。声を抑えようとすると嗚咽がでる。ぼやけた視界も嗚咽も止まる様子をみせない。
今はエマと月城が付き合えたことよりも、自分の恋がここで確実に綺麗に終わったことしか考えることができない。
エマと月城のことを心の底から祝いたい。けれど、私の心が邪魔をする。
本当は祝いたくない、私の方がエマとずっと一緒にいたのに、私の方がエマのことをずっと前から好きだったという言葉の数々が頭の中でループする。
でも、これが恋のいいところだと私は思う。
好きでいるけれど、どうも好きな子の恋を応援してしまう。だから自分が辛い思いをする。いずれ、自分の恋は叶うことのないものだと気づく。
恋はどんなものよりも儚く綺麗に花のように散る。そんな経験も人生には必ず必要になる。
だから私は、エマに返信をする。心からの言葉を。

▼おめでとう。エマのこと応援してる。
私ずっと、エマのこと好きだからね。