公園から家に帰るとお母さんに「どうしたの!?」と、驚かれた。そりゃあそうかと思った。
お母さんの質問に答える気にもなれず、部屋にいって着替えを持ってお風呂に向かう。

***

幸いスマホは制服のポケットに入れていた。画面を開くと通知が三件来ていた。送り主はエマだった。アプリを開くと
『今日はなんかごめん。』
『もし嫌だったら無視して構わないんだけど、嫌じゃなかったら返信して欲しいな。』
『あのね、前みたいにちゃんと話し合わない?』
正直話し合っても私の感情を伝える気は無いし、伝えても友達として好きなのだと思われると思った。
でも、私と話し合おうとしてくれた事が嬉しかった。
『ううん、こっちこそごめん。』
『うん、ちゃんと話し合おう。』
そう送るとすぐに既読がついた。
『よかった。ありがとう。明日の放課後空いてるかな?』
『うん、空いてるよ』
『じゃあ、明日の放課後教室で。』
お互い無駄なことは話さなかった。なぜかその状況が苦しく胸に迫る。
余計なことを考えたくなくて今日はもう眠りにつこうと思い、目を瞑った。
寝る前に浮かんだのは、またエマと一緒に笑って過ごす日常だった。

***

朝起きてからずっと頭にあるのはエマのこと。なぜかずっと嫌な予感が止まらない。
親に浮かない顔してるよと心配そうに言われて、なぜか罪悪感を覚えた。
だから朝ごはんを早く食べ終えて素早く家を出た。
人がたくさん歩きながら笑っている。自然と眉が下がる。
いつもはエマと話しながら歩く道のりをひとりで歩いていると考えると、すごくエマに依存というか執着している気がして、再び罪悪感を覚える。
また、エマの笑顔をみたいなと空に願う。

***

放課後になり教室に残って椅子に座る。緊張しているからか心臓がバクバクと鳴り止まない。
私が走って逃げた理由をエマになんというべきか。
そう考えていると教室のドアが勢いよく開いた。エマがいた。顔はなにかを決心したようでたくましく見えた。
「花恋。なにかあったの? 私のこと嫌いになったの?」
「違う。嫌いになるわけないよ。」
「じゃあなんで・・・・・・。」
なんでと言われても言えるわけない。だから私は『親友として』一緒にいたいということを、伝えることにした。
しかし、口から出た言葉はそんなことよりも酷く冷たかった。
「エマに何がわかるの。ずっと一緒だったじゃない。」
言葉にした時、エマは涙を堪えていた。何に対しての涙なのかはわからない。
そんな顔をしているエマを前に私の口は止まることを知らない。
「私はずっとエマが第一に私を頼ってくれてると思った。でも、エマは月城を好きになってからずっと朝から帰りまでずっと、月城ばっかで、ずるいって・・・・・・思っちゃったの。」
一歩間違えれば明らかに勘違いされる発言。
私からしたらエマは大きく勘違いしていたが、逆に勘違いされて良かったのかもしれない。
「ごめん。花恋のことどうでもいいわけじゃないの。私的には十分頼ってるつもり。それに今花恋が私のことをすごく思ってくれていて嬉しい。」
そうやってエマは紐を解くように言葉を発する。
でも、そういうことじゃなかった。ちゃんと私を必要だと、大切だと、心から思っていると、言って欲しかった。
エマは必死に月城が好きだけど私のことも好きだと弁解している。その好きは私の好きと違う。当たり前だ。エマは月城を恋愛として好きなんだ。私だけがエマのそばにいても意味が無いんだ。
視界が次第にぼやけて思わず、頬に触れる。濡れていた。泣いているんだとわかった。自分のことなのになぜ泣いているのかがわからない。
いやわからないんじゃない。わかりたくないだけだ。
エマは私を親友としか見ていなくて、エマを恋愛として見てるのが私だけなのが悲しくて泣いている。
「ごめん、花恋。これからも親友として仲良くしてよ。泣かないで。」
泣かないでと言われても、その一言がまた泣かせる。
『親友として』その言葉が私の胸に深く強く勢いよく突き刺さった。
「うん、ごめん。エマとこんな風になるの久しぶりで泣いちゃった。うん、これからも親友として仲良くしよう。」
私がエマに今言える親友としての返事はただの泣いているいい訳に過ぎなかった。
「うん。花恋聞いて。私・・・・・・宗くんに告白する。」
驚いた。エマは昔から自分から行動をすることはほとんどなくて、学級委員長とか生徒会長とかも全部推薦でなったも同然だ。
でも、そんなことわかりきってた。いつかどちらかが告白するのではないかって、ずっと思ってた。
私はエマの幸せそうに笑う顔が見たい。
「そっか。応援してるよ。頑張ってね。」
私が今エマに言える最大の背中押しの言葉。エマに伝わっただろうか。
教室が暗くなり、窓の外に目を向ける。空は黒い雲で覆われている所と、白い雲で覆われている所があった。
まるで、私とエマを映し出しているかのようでまた泣きそうになった。

***

家に帰ったあと私は腰ぐらいまで伸ばしていた髪の毛を切った。もちろん、男子のように短く。
切る理由なんてひとつしかないだろ。
少しでもエマに見て欲しい。
少しでもエマに気にして欲しい。
たった、それだけ。どんなに見た目を変えてもエマの好きな人は月城に変わりないと思う。
それでもエマの心のどっかに私がいたら、なんて願いを込める。

***

次の日の朝にエマと待ち合わせる。エマが柱に寄りかかって待っている。
「おはよう、エマ。」
「おはよう、花恋・・・・・・花恋!? どうしたの髪。」
「んー、何となくかな。」
「そうなんだ。似合ってるよ。」
そういってエマは俯いていた私の顔を覗き込んで、太陽みたいに眩しく笑った。
バカエマだな。理由もなくばっさり髪を切るなんてしないよ、少なくとも 私 は。