私は周りからよく可愛いだとかいい子だとか言われていた。家でも学校でも褒められてばっか。
でも、悪い気は全くなかったから幼くしてこれが幸せってやつなのかと思っていた。
けれど、前に読んだ本に書いてあった『幸せは一瞬にして壊れる』なんて言葉が現実になるなんて一ミリも思っていなかった。

小学生になって高学年になって、みんなが異性を異常に気にするようになる時期だと先生が言っていた。
私は男子なんて友達にしか思ったことないから、気にせずに男子と遊んだし女子とも遊んだ。
女子と遊ぶ度にみんなは好きな男子について話し始める。私は遊びたいのにみんなは話すのに夢中で、そんな雰囲気があんまり好きにはなれなくて、
「ねぇ、そんな好きな男子とかじゃなくて、普通に遊ぼうよ。」
私はそうやってみんなに言った。
私は勝手にみんなは「うん、わかった!」とか言って一緒に遊んでくれると思ってた。けどそんなことはなくって、
「なによその言い方。そもそもさ、花恋ちゃんって可愛いとかいい子だとか言われてるから調子乗ってるんでしょ?」
と、想像もしていなかった返事をされた。
可愛いとかいい子だとか言われて、否定はしなかったけれど、調子になんか乗ってるつもりはない。
「調子になんて乗ってないよ。ただ私はお話もいいけど体を動かしたいなって思ってるの。」
「そういう言い方が調子に乗ってるんじゃないの?」
そういって彼女は私に近づく。
その瞬間『パァン!』と乾いた音が公園に響いた。
なんの音かを探すよりも先に頬に痛みが走った。理解した。彼女に叩かれたんだ。それでも私は前を向いた。けれどみんなが私に向ける視線は冷酷で、本当に小学高学年なのかと疑うことができるほど怖かった。

その日から私は女子という生き物が苦手になっていて、関わることをやめた。かといって、男子と一緒にいるとまた叩かれるのではないかという恐怖で、男子という生き物もまた苦手になった。
可愛い、いい子。周りからそう言われ続けただけでなぜ叩かれなきゃいけないのかわからなかった。
そしてクラスでは自然的に独りになっていた。クラス全員が私が教室にいないかのように扱っていた。
そう扱われ続けて少し経って、休日に一人で公園に来ていたことがあった。家にいると親の優しさで泣いてしまいそうだったから、友達と遊んでくると嘘をついて外に出てきた。友達同士で砂場で山を作って楽しそうにしている姿を見るととても羨ましく思えた。
「同じクラスの扇花恋だよね?」
そういって私に話しかけたのは、同じクラスで学級委員長の成瀬エマだった。
また、なにか文句を言われて叩かれるのかと考えると怖くて、少し俯いた。
「私のことわかる? 学級委員長の成瀬エマ。」
「な、なんか用ですか?」
怖くて声が上手く出せない。
「花恋さん、私と友達になりましょう。」
といって私に手を差し伸べる。
理解ができなくて必死に頭を回転させる。
なぜ、学級委員長がクラスで空気とされてる私に友達になろうと言ってくるのか。それとも何か裏があるのか。
「裏なんてない。私ずっと学級委員長としてクラスを傍観してたけど、私は花恋さんが羨ましく思えるの。」
私にそういう姿はほんとに小学高学年なのかと疑うほど、誰よりも大人っぽくて綺麗だった。どんな人より魅力的で見惚れる。
そんな姿で私に手を差し出していた手を私は握り返した。その手は暖かくて泣きそうだった。
「ありがとう。これからよろしくね、花恋。」
そういって私に微笑む。それにつられて私も「よろしく、エマ。」といって微笑み返した。

それからはエマが私のところによく来てくれるようになって、周りも仕方なくといった感じだが私と話してくれることが何回かあった。そこにはまだぎこちなさがあったが、前に比べたら圧倒的にマシだと思った。
そして、私は辛くて苦しくて悲しくて死にそうな時に「これからよろしく」って、私たちが初めて交わした約束がやがて私の光の道標となった。エマは大袈裟に言って恩人。
エマこそまさに、可愛くていい子で完璧な子だと思った。私なんかよりずっと素敵で、そんな子といるのにたまに罪悪感を感じることも多々あった。
それをエマに言うと「私が花恋といたいから一緒にいる。花恋が罪悪感を感じる必要性はゼロ。」と、真顔でいう姿にきっと私は惚れたんだと思う。家族以外にそんな風に言ってくれる人が初めてで、気づいたら涙が零れていたらしく、エマはハンカチで私の涙を拭ってくれた事は絶対に忘れない。
エマに惚れたって自覚してからエマが時々「花恋好きだよ」って冗談で言ってくる時は死にそうになるし、ちょっとした姿にもキュンとくるようになって気づいた時には嫉妬するほどに。