カフェでエマから好きな人が出来たと言われてから月日が経って、エマと月城も次第に仲良くなっていて、休み時間にはお互いがお互いの席に行って話していることが多い。
エマはとても楽しそうだったから私はなにもしないことにした。私のところに来たと思えば「宗くんがね!」と恋バナを聞かされるなんてことはもう習慣化していたし、私もエマの笑顔を見るだけで癒される気がしたからいつでもエマの恋バナを聞くようにしている。
でも、もしも私が男子で、ちょっと前みたいに行きも帰りも一緒で、何かあればちゃんとお互い話して、これからもよろしく、なんて言って笑い会う日々を過ごしていたら、両思いだったりするのだろうか。
私が女子のままでもエマが男子に興味なんて一切もたなくて、ずっと私といたらこんな・・・・・・こんな辛くて苦しくて泣きそうな気持ちになんてならないのではないだろうか。
そんなことを思っていてもいつも視界に入ってくるのは、エマと月城が仲良く笑いながら話している光景。傍からみたら付き合ってると勘違いされるような距離感で、私もよくクラスメイト「あの二人付き合ってる?」なんて聞かれることも多々ある。
そういう話を聞くと、やっぱりエマと月城は周りから見てお似合いなんだろうなと毎回実感させられる。
まるで、お前はエマの視界になんて入っていないとでも言われているような気分だった。
何度空に好きな人の好きな人が私になりますようにって、バカバカしい願いを心で唱えただろうか。まさに、漫画などでよくいる悲劇のヒロインってやつじゃないか。
最近はなぜか曇りが続いている。時々雨も降る。その天気は私の心を表しているみたいで、天気の神様はエマの味方をしたのだろうかと、謎な思考回路に至る。
「ねぇ、花恋。今雨降ってる。」
さっきまで宗くんと楽しそうに話していたのに気づいたら私の目の前にいて話しかけてきた。
「あ、ほんとだ。でもそれがどうしたの?」
「宗くんと帰ることになったの! 傘いれてあげるよって。」
私の心には今降っている雨よりも多く、冷たい雨のような穢れたなにかが降り注いだ気がした。
「え、なんで? 私も傘持ってるよ?」
しまった。考えるよりも先に口が動いてしまっていた。絶対不審に思われた。
「なんだ、持ってたんだ。持ってないかと思って。あと今日宗くんと図書館行くからさ。結局はね?」
最初は少し驚いたように首を傾げ、目を開いていたが、月城の話をした途端嬉しそうに口角を上げて、頬を染めて、俯いた。
幸い、不審がられてはいなかったが私はその姿を見て泣きそうだった。
私ではエマにそんな顔をさせてあげられなかったこと。
月城よりエマと一緒にいた時間は長いのに、月城の方がエマにとっての優位な立場だったこと。
醜い感情が心と頭の中で渦を巻く。嫉妬や独占欲。月城がずるくて羨ましくて泣きそうだった。
「そんなに私と帰れなくて悲しかった? なんかごめんね。」
私の顔を覗いてエマが私に言う。
違う。私は謝らせたいわけじゃない。エマにそんな困ったような顔をさせたいわけじゃない。
なのに、思考は瞬間的に嫉妬と独占欲に呑まれていく。口は動かなくて思考も上手く回らない。
「ごめん、もう、戻るね。」
エマは行ってしまった。その行先は月城。
私は気づいたらどこかに走っていて、視界はずっとぼやけていた。

***

雨で濡れたブランコ。
ベンチに雨の雫がぴちょんとはねる。
地面に大きな水溜まりと小さな水溜まり。
小さい子のであろう小さなスコップ。
毛先から滴る雨の雫。
雨か、涙か。わからないが頬は濡れている。
気づいたら砂場とブランコしかない公園についていた。ここがどこかもわからず、辺りを見回す。雨に濡れた制服が重く肩にのしかかる。
「あの大丈夫ですか?」
通行人が私に話しかけている。
「大丈夫ですよ。ちょっと親と喧嘩してしまっただけなので。」
そういって私は相手に迷惑をかけまいとその場を離れる。
上を見ると雨が目に入りそうで、思わず目をぎゅっと瞑る。これからエマを前にした時どうすればいいのだろうか。
私じゃなくてもいいのかもしれない。
そう思った瞬間、虚無感、孤独感が押し寄せる。その感覚が忌まわしくて気持ち悪い。
もう一度泣き出してしまいそうで、またぎゅっと目を瞑った。
もううざがられてる、嫌われてる。そう思うことでこの恋を諦めようと思った。
でもそう思っても今までのエマとの思い出が走馬灯のように頭に流れる。
その思い出は全て、エマも私も笑っていて楽しそうだった。そして、そのエマの笑った顔は月城に向けていた笑顔と一致したように見えた。
そうすると、なぜかエマも私の事が好きだったのではないかと、すっと頭に浮かんだ。
私は何変なことを考えているのだろう。
私の心は汚くて穢れてる。そんな言葉が似合う私の気持ち。

私みたいな汚くて穢れてるやつなんかエマはきっと好きにならない。
でも、エマのことを諦めることはできない。