「花恋、今日はカフェに行こう。」
「あぁ、もちろんいいよ! でも生徒会長がそんなんで大丈夫なのか?」
「生徒会長だからといって忙しいわけじゃないよ。」
エマは生徒会長なのに滅多に居残りしない。私はてっきり生徒会長は居残りして最終下校時間まで先生のパシリにされているのかと前まで思っていたがそうでもないらしい。
「でもカフェなんてどうしたの?」
そうだ、エマが帰りに寄り道するなんてすごく珍しい。いつもはすることがあるのか知らないけれど、家に直行だ。
「たまには花恋とお話したいなって。ダメ?」
と、私を上目遣いで見上げる。あぁ、ずるい、と思う。
私はエマのことが好き。もちろん、恋愛感情で。エマが男子と話しているとずるいなって思うし、女子と話しているときでさえ思ってしまう。そんな気持ち知らずにエマは可愛い行動をしてくる。
「いいや、ダメじゃない。むしろ、嬉しいよ。」
「そっか、よかった。」
そう言ってエマは前を向いて歩く。
エマと私とでは約十センチの差があるから、私が髪の毛を短くしてズボンでも履いたらカップルに見えるかもしれない。でもきっとそんなことしてもエマは女の親友だとしか思わないとなぜか予測できる。
でももしかしたら、本当にもしかしたらエマと付き合って手を繋いで、今日はどこに行く? って言うことが可能なのだろうか。
そんなことを考えているといつの間にかカフェについていた。そのカフェは外見からもうロマンチックだった。こげ茶の木材で作られていて、知る人ぞ知るカフェって感じがした。
店内に入るとドアにかけてあるベルがチリンと鳴った。店内は想像以上に雰囲気がロマンチックだった。外見からでは決して感じ取ることの出来ない雰囲気。暗すぎず明るすぎず、電気は暖色でテーブルやイスが照らしていた。
「花恋? 大丈夫? ここ嫌だった?」
ふいに、エマが私に問いかけた。そんなに黙ってしまっていたのだろうか。
「いやむしろ雰囲気良すぎてやばい。」
「相変わらずの語彙力ね。」
「頭の中ではちゃんと考えてますー。」
「花恋が言っても説得力ないよ。」
そういってエマはクスッと笑う。その仕草でさえ愛おしくて、つい見とれてしまう。それほど好きなんだなと改めて実感する。
「注文はお決まりですか?」
「カフェラテと...花恋はどうする?」
「私は抹茶カフェラテでお願いします。」
「かしこまりました。」
と、店員が去っていった後も私は店内を眺めていた。広すぎず狭すぎず、人も多すぎず少なすぎず、自分的にすごく落ち着く感じだった。
ふと、エマに視線を向ける。落ちかけの日の光が店内に差し込んでエマの顔を照らしていた。エマは窓の外を見つめている。
いつも顔が整ってるいると感じるが、横顔はもっと見入ってしまうほど整ってるから、きっと誰もが釘付けになってしまうのではないかと勝手に少し不安になる。でもそれほどその姿は儚げで触れたらすっと消えてしまいそうだった。
「そんなに私の顔見つめてなに? なんかついてる?」
しまった・・・・・・そんなに見つめていたか。
「いや、エマが綺麗だなって。」
「なにそれ、今日の花恋変なのー。」
と、口角を上げて微笑む姿も綺麗だった。
エマはいつの間にかテーブルに置いてあったカフェラテに口をつけて、また窓の外を眺める。カフェラテから口を離したと思った矢先、舌で唇を一周した。とてつもなく色気がすごい。男子の前でやったら絶対襲われるだろとか勝手に考える。
「花恋、相談がある。私ね・・・・・・」
溜めるエマ。なんとなく予測できる気がする。
「「好きな人ができた。」」
「ふふっ、当たったよ。」
エマは驚いて少し固まる。
「で、お相手は?」
エマの答えが私だったらなって考えるがそんなことあるわけないか、と内心ほぼ諦めた。
「えっと、同じクラスの宗くんが好きになっちゃって・・・・・・。」
同じクラスの月城宗か。そうだよな。れっきとした男の子で顔面もよくて、男子にも女子にも人気。
「どこが好きなのー?」
「えっとね、まず顔がかっこいいのと、男子にも女子にも一緒の対応でさ。男の子っぽくて・・・・・・。」
こんなん失恋確定だったじゃんと思わずふっと笑ってしまう。
「何笑ってんのよ!こっちは真剣なの!」
と、顔を赤くして言う。思わず嫉妬。
私にも真剣になってくれたらいいのにと、叶わない願いが頭に浮かぶ。やっぱり女が女に向ける好意は簡単にも終わるんだなと実感。
「ごめんごめん。でも珍しいじゃん。エマが誰か好きになるなんて。」
「そう好きになったきっかけなんだけど。聞いてくれる?」
「ここまで聞いて聞かない選択肢はありませんー。」
「前生徒会で1回居残りした時があったでしょ?あの時に資料まとめるの手伝ってくれてさ。」
え、それだけ? と思わず思ってしまった。そんなん言ったら私だって何回も手伝ったし、圧倒的に私といた時間の方が多いのに。
なんて醜い感情なんだろうかと思い、自分に呆れる。
「そっかそっか。あいつとあんま話したことないなあ。今度話しかけてみれば?」
「えー、恥ずかしいよ。」
そういって赤くなった顔を手で覆った。その姿も可愛らしいなと微笑ましくなってしまう。

そして、この気持ちは自分の奥底に沈めておこうと決めることにした。