たまに小声で何か呟いているのだが、その度に耳を傾けないせいで一体何言っているのかが全くわからない。
 ……もしかして、この状況わかってないのは僕だけなのか?
 二羽蛍とこいつがわかっているのは確定だ。二羽は当事者だし。こいつは明らかに細かな言動から二羽が何故授業中に僕へ話しかけてくるのか気づいている。
 全く何故直接話してくれないんだ。
「……お前が気づかないとあいつの努力の意味がないからな」
「え、またお前何か重要な事言っただろ」
「いや、別に?」
 ニヤりとした顔をしながら、友人は答える。
 僕は、またモヤモヤとした気持ちを抱える事になってしまった。二羽の真意を知っているなら言ってほしい。彼が本人に直接聞いたかどうかは知らないけど。

  2

 次の授業も、二羽はまた僕に小声で話しかけてくる。
「それで、家の近くにいる堀でいつもくつろいでいる猫ちゃんが、カラスと喧嘩しているところ見たの。結構攻防激しかったんだよね」
 ……結局その猫の話をしてきた。というか可愛いと言っていたのは何だ結構バイオレンスな話をしてくるじゃないか。猫対カラスの喧嘩とか地味に怖いわ。
「へえ……」
 僕は流し聞きをして、授業にすぐ戻った。今は集中するための時間なのだから、少し勘弁してほしい。ここの高校は、時々話し声がボソッと聞こえたりはするけれど、基本的には真面目に授業を受けている生徒が大半なので、下手したら先生が気づきかねない。
「もう、つれないな~」
 隣から聞こえてくる二羽の声をスルーする。
「……これは、独り言なんだけど、一葉は今月誕生日なんだよね」
 それは、独り言とは言えない。ただ、質問しているだけだ。
「……」
「そうなんだよね……?」