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「ねえ」
 僕は隣から小さく聞こえてきたこちらへの声かけをスルーした。
「……ねえ」
 これは、今の状況が状況だからである。
「ねえって、聞こえてないの?」
 状況的にスルーした方がいいし、彼女の事だからあまり関係のない事を話してくるだろうし、スルーしよ……。
「仕方ない。それじゃあ薫くんが秘密裏に隠していたあの写真を……」
「……て、ちょっと待て今なんて!?」
 思わず席から飛び上がってしまった。その結果は、
「……一葉くん、授業中は静かに」
「は、はい」
 思いっきり先生に怒られてしまった。そして、その原因となった彼女は顔を隠しているが明らかに笑っている。
 ……おのれ、二羽。
 しかも、本人は知らんふりだ。というか、いつも自分だけはちゃっかりバレないような小細工をしている。
「一葉(いつば)が声かけ無視するから、強硬手段を選んじゃった」
 隣の席で、授業中にとんでもない事をしようとしてきた彼女は二羽蛍(ふたばねほたる)。クラスでは明るくおどけた性格であると認識されている。
 そして、僕に対しては授業中に何故か声を掛けてくる相手だ。席が一番奥にあり、先生から目を付けられにくい事をいい事に。ついでだが、先ほどの秘密裏に隠していた写真には心当たりがある。思いっきり弱みを握られてしまった形になる。校則違反とか、そういうものではないのだが、クラス中に思いっきり拡散されるのは流石に不味いと思っている。
「今授業中だろ……それに、何てことしようとするんだよ」
 僕は二羽の言い訳に突っ込む。先生に聞こえない様に、小声で。
「ごめんごめん。でも一葉はこうでもしないとスルーしちゃうから、さ」
「そりゃそうだろ。授業中に話すとかマナーが悪い」
「それはわかってるけど……」