秋になった。
 と言っても、南国であるこの勇者村に四季みたいなのはあんまりない。

 四季っていうか二季だな。
 乾季と雨季がある。
 もうすぐ雨季が来る。

 うちで育ててる麦は変わっていて、乾季のうちに実をつける。
 ブレインいわく、

「この麦は魔法的な力を持っていて、種籾のうちに雨季の水をどこかに溜め込んでしまうようです。そして、その水を使いながら乾季に育つ。この時期にはライバルとなる植物が少ないですから、土の養分を独り占めできるのでしょう」

 なんだそうだ。
 植物も生存競争は激しいな。

 実はあまり多くない麦だが、その代わり乾季に収穫できるのでありがたい。

 教会の建造も完全に終わり、今日は村人総出で麦刈りだ。

「うんとこしょ、どっこいしょ」

 カトリナが堂に入った動作で刈り取っていく。
 前の住まいでは、麦畑の手伝いなどをしてお駄賃をもらっていたんだそうだ。

「一年後に勇者様の奥さんになって、自分の畑の収穫をしてるなんて思ってもいなかったよ」

「だろうなあー。俺もまさか、魔王を倒してから畑作やるとは思ってなかった」

 肩を並べて、二人でわっせわっせと麦を刈り取る。
 散々世話した上に、クロロック入魂の最上級の肥料を使ったので、とんでもない豊作だ。

 害虫の類は、トリマル一家が片付けてくれたもんな。
 ひよこもみんなホロホロ鳥になり、毎日がホロホロと賑やかである。

「ホロホロ―」

「あぶばー」

「ほろほろー」

「きゃあー」

 ホロホロ鳥に混じって、ビンが猛烈な勢いでハイハイをしている。
 一日五回おっぱいを飲んで暮らした赤ちゃんは、実に強靭に育った。
 これを嬉しそうに見つめるフックとミーは、ここに来て半年ですっかり父親と母親の顔になった。

 俺もああなっていきたいものである。

「赤ちゃん欲しいねえー」

「欲しいなあー。だが焦る必要は無い気もする。カトリナはまだ若いしな」

「そうだけどねえー。欲しいものは欲しいの」

 そうかそうか。
 では今夜も頑張るか……!

 二人でそういうアイコンタクトをしていたらば、手前村に通じる道の辺りが騒がしくなった。
 馬のいななきが聞こえる。
 馬車が来るとは珍しい。

 しかも、やって来たのは豪華な馬車だった。

「ショート!」

 降りてきた人物を見て、俺は目を剥く。

「トラッピア! 女王がこんなとこ来てていいのか」

「たまの休暇よ!! で、どう? ハナメデルは鍛えられてる? うちに婿に来たはずのハナメデルが、半年も姿が見えないからって、外国の新聞があることないこと書いてるのよね」

「なんだ、まだあの新聞は出てるのか。出してるところ分かったのか?」

「ええ。ポリッコーレ共和国の人民新聞社よ」

「ははあ、名前からしてろくでもなさそうだ」

「また戦争を煽ってるみたいね。ハジメーノ王国を諸悪の根源とか言って。でも、ショートのお陰で王国だけで、油を生産できるようになったから困ってないわ」

「うむ。経済制裁できないとなると、軍事で叩くしかなくなるからな。だが軍事は俺が叩き潰す。それでも、外国でちくちく悪口を言ってくるのはよろしくないな。ちょっとその新聞社を潰してこよう」

「世話をかけるわねえ」

「女王が直々に来たってことは、それを依頼しに来たんだろ。流石に一国の長の顔を潰すほど俺もバカではない。カトリナ、昼飯までには戻るー」

「はーい」

 ということで、俺はフワリで浮かび上がり、バビュンで飛んだ。
 海上に出たところで、最高速になる。
 速度的には、地球なら五時間で一周する程度である。

 あっというまにポリッコーレに到着した。
 人民新聞社とやらに、正面から突撃する。

「新聞を発行するのはいいが、ハジメーノ王国のことをあれこれ想像で書くのやめなさい」

「な、なんだお前は!!」

 記者たちが俺を見て驚愕する。

「勇者ショートだ。ハジメーノ王国には俺が住んでいるので、それの邪魔をするようなことはやめなさい」

「い、いや、それはできない!! 俺たちの記事は正義のために書かれてるんだ」

「そうだ! ハジメーノ王国こそ諸悪の根源! あれを叩かなければ正義はない!」

「そうだそうだ! さらに、グンジツヨイ帝国とも結びついたらしいじゃないか!」

「魔王がいない時代に軍事力なんて不要だ! 連合国でグンジツヨイ帝国も屈服させるべきだ!」

「そうだ! 世論もそう言っている!」

 俺は彼らの言葉を一通り聞いた後で、うんうん頷いた。

「言いたいことはそれだけか。では話を聞かなそうなので、お前たち全員を洗脳する」

「エッッッッッ」

 記者たちが揃って目を剥く。

「ゆ、勇者ショートがどうしてそんな暴虐を!!」

「ハジメーノ王国に毒されてしまったのか!」

「聞いたことがある! たしか勇者ショートに取り入ってオーガの女が妻に」

「エターナルナイトメア!!! 貴様はこれから五十年悪夢の中だ!」

「ウグワーッ!!」

 カトリナに対して大変シツレイなことを言うやつがいたので、ちょびっとお仕置きしておいた。

「ちっ、力で我々を黙らせようなんて、横暴だ!」

「そうだそうだ! 勇者がたとえ敵に回っても、我々は神に誓って正義を貫く……」

「その神は、俺が任命した神様で、しかも元々の神は全滅してて、唯一残った前時代の神は俺の剣になっている……」

「!?」

 記者たちが揃って目を剥く。

「な、何を……」

「お前たちはどうやら真実が知りたいようだ。では、真実を教えてやろう……。情報転送魔法、コピッペー(俺命名)!!」

「ウグワーッ!!」

「そ、そんな! 神はもうみんな殺されている!?」

「ヒギィ! 魔王はあれで終わりではなくて、世界の外から無限にやって来る!!」

「ギエエーッ! わ、我々のしていたことが世界にとって無意味!! 無価値!!」

 全ての真実を流し込んでみた。
 全員真っ白に燃え尽きたので、ここで優しい俺はそっと彼らに洗脳魔法を掛けてやったのである。

「これからお前らは、どこどこの赤ちゃんが生まれました、とか、どこの村おこしがされてます、とか、とっておきグルメニュースだけを書いて暮らしていくのだ……!! わははははは!! 二度とゴシップ記事など書けんぞ!! あっ、やべえ、昼飯の時間だ。じゃあな」

 俺はシュンッで消えた。
 昼飯には間に合ったのである。

「どうだった、ショート?」

「とりあえずオハナシして来た」

 俺の簡易な説明に、トラッピアは満足げに頷くのだった。