その後、俺はハジメーノ王国軍と連合国軍をどちらも戦闘不能した。
 具体的には双方とも念動魔法で浮かせっぱなしにした。

 浮遊魔法を使ってもいいのだが、こっちは浮くだけで体の自由が効くんだよな。
 念動魔法は相手の全身を拘束できる。

 ということで、戦争にならなくなったので、一時停戦となった。
 戦場で得た情報を持って帰ってくると、もうすっかり夜である。

「あー、めんどくさいめんどくさい。他人が起こした戦争に関わってると、無駄に一日が過ぎてしまう。俺は勇者村をもり立てたり、カトリナとイチャイチャしたりで忙しいのに」

 ぶつぶつ言いながら、瞬間移動用のポイントにしていた対策室へと現れる。
 すると、突然俺が出現したので、周囲にいた連中がビクッとした。

「う、うわっ! 勇者殿か!」

「トラッピア陛下ー! 勇者殿が戻ってこられましたぞー!」

 トラッピアが陛下になっている!
 父王をクーデターで引きずり下ろしたのだから、まあ陛下か。
 女王トラッピアなんだな。

 向こうから、トラッピアが走ってきた。

「ショート! よく帰ってきたわね!! で、どうだったの?」

「ショート、怪我はない?」

「ショートー! 帰ってきた、そこはあたしをハグしなきゃでしょ!」

 カトリナは優しいなあ。
 あと、ヒロイナが放し飼いになってるぞ!
 あの危険人物をなんとかしてくれ!

 女子たちと、対策室の重鎮たちに囲まれ、俺は戦争の状況について説明した。

「停戦させてきた。だが、あれだな。連合国の国民が戦争を望んでるから、こりゃあ何回も起こるんじゃないか? この国は分かりやすい悪役にされてるから、魔王との戦いで溜まった鬱憤晴らしに利用されてるぞ」

「国民が……? 各国が統一してそういう意思を持つのはおかしくない? 誰かが先導しないと……」

「この新聞が先導してた。各国へ送られた支援物資に入ってたそうだ。支援物資の送り主は不明らしいが」

 新聞を前に、トラッピアとこの国の連中が、ああだこうだと騒ぎ始めた。

「よし、じゃあ状況は終了! 俺は帰宅! じゃあな!」

「あ、ちょっと待ってショート! やはり女王の傍らには最強の剣が必要だと思うのよ!」

「ショート! ずっと昔から、あたし、ショートの事が好きだったの! ねえ、今こそ昔の思いを叶えよう?」

「うるさいぞ!? 背筋がゾクゾクするからやめなさい!」

 俺は女子二名を振り払い、カトリナをお姫様抱っこした。

「ブレイン! 俺の背中に掴まれ!」

「あ、はい」

 ブレインがトコトコやって来て、俺の背におぶさった。

「で、さらばだ諸君」

 俺は彼らに告げると、瞬間移動魔法を使用した。
 今度の移動先は、城門だ。
 ここに降り立った時、ポイントを設置しておいた。

 そして、そこから浮遊して高速移動しながらの帰還となる。

「初めまして、ブレインです。ショートの奥様だとか。いやあ、どうも。ショートがいつもお世話になっています」

「いっ、いえいえ、こちらこそ! 勇者村はいいところだから、ブレインさんもきっと楽しく暮らせると思うよ!」

 ブレインとカトリナが、俺を挟んで挨拶している。
 やはり、ブレインは勇者村向きだな。

 この男は賢者と言うだけあって、それなりに広範な知識と、多種多様な魔法が使える。
 いろいろな仕事のヘルプ要員として活躍できるだろう。
 こいつほどの男が、王都の片隅でほそぼそと暮らすのはあまりにももったいない。

「というかブレイン、トラッピアからリクルートされなかったのか?」

「りくるーと? ああ、勧誘のことですね。実はトラッピア陛下の取り巻きの方々が猛反発しまして。自分たちの仕事が取られると」

「ははあ……。有能なやつを排斥しようとしたのだな。よくあるよくある」

 どっちにしろ冷や飯喰らい確定だったわけか。
 では連れてきて正解だったな。

 一時間ほどのんびり飛ぶと、勇者村が見えてきた。
 完全に真夜中なので、灯りも消えている。

 上空から見下ろすと、俺たちの家の近くに、建てかけのログハウスがある。
 フックとミー夫妻用の家だ。

「家も自分たちで建てているんですね。僕はですね、新たに建築学を学んだのでお手伝いできますよ」

「ほんとか! 家造りは元大工のブルスト一人がやってたから助かるなあ」

 勇者村へと降り立つ俺たち。
 詳しい話は明日にしよう、という事になった。

 大部屋に行くと、ブルストがぐうぐう寝ていた。

「ひとまずここで寝てくれ。お疲れー」

「お疲れさまです」

「また明日ね、ブレインさん」

 ということで、その夜は気疲れからか、俺は深く深く爆睡したのだった。
 あの二人が並ぶと、本当に体が持たない。
 もう王都には行きたくないな!

 朝になり、ブレインを仲間たちに紹介した。
 ブルストは、助手ができたと大喜びである。
 フックとミー夫妻の家造りも急ピッチで進みそうらしい。

 そしてクロロックが、ブレインと出会ってしまった。

「ほう、様々な知識を持つ賢者ですか」

「ほう、多様な知識を持つ学者ですか」

「ワタクシの専攻は農学でして。畑を耕し、肥料を作っていますよ」

「肥料……。興味があります」

「ありますか」

「やらせてもらえますか」

「是非」

 あっという間に意気投合した二人が、肥料をかき混ぜに行ってしまった。

「あの二人、キャラが被ってるよな」

「キャラ?」

 俺の言葉に、首をかしげるカトリナなのだった。

 かくして、万能お手伝い要員の賢者ブレインを仲間にしたぞ!