家をガンガンと作る。
 小川に半分せり出すような作りだ。

 陸棲種のカエルとは言え、クロロックはカエルである。
 水気が近いほうがいい。

「しばらく俺はこっちにかかりきりになるからな。開拓の方は任せるぜ」

「おう、任せるがいい。俺はブルストの弟子のようなものだからな」

「で、弟子……! へへへ、よせやい」

 ブルスト、照れる。
 おっさんが照れても誰得なのか?
 いや、この間カトリナが喜んでたから、ブルストを褒めると彼女が喜ぶのだな。

 仲のいい父娘だ。

「ではワタクシは畑作作業を行いましょう。役割分担です」

「よし。頭数も増やしたことだし、みんなで同時に色々進行していくぞ」

 俺はガッツポーズをした。
 さあ、作業開始だ。
 スローライフは一日にしてならず。

 日々の積み重ねが大切だからな。
 クロロックとともに、家に戻る途中である。

 俺の脳内に、警戒魔法ゾクダーの警報音が響き渡った。

「むっ!!」

「どうしたのですかショートさん」

「カトリナが危ない」

「どうして分かるのですか」

「詳しい説明をする時間はないから一言で言うと、念のために家には警戒魔法を掛けてあったのだ。では先に行くぞ。シュンッ!」

 瞬間移動魔法によって、俺は即座に移動した。
 座標を家に定めてあったからな。

 俺が出現したのは、家の扉の前だった。
 すると、どうやらそこに何人も人がいたらしくて、連中の只中に登場した。

「ウグワーッ」

 出現した俺に弾き出されて、一人が真横に吹っ飛んでいった。

「おっ、なんだなんだ」

 俺はキョロキョロする。

「ショート!」

 カトリナの声がした。
 彼女は、大柄な男と小柄な男に詰め寄られ、扉に背をつけているところだったのだ。

「むっ、お前たちカトリナから離れろ」

「で、出た!」

「いきなり現れたぞ!」

「勇者ショートだ!」

「トキモドール!」

 禁句が出たのでちょっと巻き戻した。
 はい、やり直し。

「勇し」

「ツアーッ!!」

 俺の逆水平チョップが、勇者呼ばわりをしてくる男の胸板に炸裂した。

「ウグワーッ!!」

「攻撃してきたぞ!!」

 男たちは散開し、俺を取り囲んだ。
 彼らはマントを翻し、戦闘態勢になったようだ。

 マントの裏地が鮮やかに赤く、その下には装飾がバリバリされた鎧を纏っている。
 輝くハジメーノ王国の紋章。
 そしてあの派手な鎧は、王国のロイヤルガードの証だ。

 あー、こいつらこの間俺が見に行った時、俺のこと生意気だとか言ってた奴らか。

「やはり我らに敵対してきたか、勇」

「俺の二つ名は、スローライフ人ショート!! そう呼べ!!」

 俺は裂帛の気合を放った。
 魔力をそのまま、プレッシャーのようにして周囲に放つ。
 びりびりと大地が震えた。

「くっ、な、なんて気迫だ! こいつは見掛け倒しじゃないぞ」

「腐っても勇」

「スローラーイフッ!!」

 俺は飛び上がり、また勇者とか発言仕掛けていたやつをローリングソバットで吹き飛ばした。

「ウグワーッ!!」

「スローライフ人ショートだ」

「ま、また一人が一撃でやられた! 隊長、こいつ相手にゆ……というのは禁句みたいです」

「クソっ、まだ手出ししてない我々に攻撃とは! 貴様は今罪を重ねたのだぞ!」

「ショート! むちゃしないで!」

 おっと、カトリナが見てる前で大立ち回りしすぎたな。

「大丈夫だカトリナ。ここからは平和的に行く」

「王国に逆らうという罪を……」

「スローライフ人ショートはみだりに暴力を振るわないのだ」

「罪……」

「さあかかってこい」

 俺が両腕を構えて、熊みたいなポーズをした。

「ダメです隊長!! こいつ話を聞いていません!!」

「ええい! 噂以上に話が通じない男だ! パワース殿のアドバイスとは全然違うではないか! 人の顔色を伺い、何かあるとすぐ姿を消す男だと……」

 そりゃお前、パワースたちがレベル違いのクソゲー紛いのバトルに突入しないよう、俺が先に敵を潰してたんだぞ。
 あいつらが無茶しそうな動きをする前にやらねばならなかったから、常にパーティの空気を察していたのだ。

「聞け、ゆ」

「スローライフッ」

「ス、スローライフ人ショート!」

 俺は笑顔で頷いた。

「なんだ!」

「話が通じた……」

「あいつのルールに従わないと会話もしてくれないのか……」

 人と人との会話には、当然払うべき礼儀というものがあるのだ。

「我らは……!!」

 残った男たちが集まり、ビシッと構えた。
 隊長を中心に、でかいの、でかいの、中くらいの、小さいのの五人である。

「トラッピア特戦隊!!」

「トラッピア特戦隊!?」

 俺はおののいた。

「あっ、こいつ畏れてますよ!」

 違う。
 トラッピアという名前でドン引きしたのだ。
 こいつら、王女の手駒か!!

 俺、あの王女苦手なんだよな……!
 こいつらはどうでもいいが、どうやら俺にとって一番恐ろしい相手に場所を嗅ぎつけられたようだ。

「さあ、天誅を喰らえスローライフ人ショート! これがトラッピア王女を袖にした報いだ!」

「うおおーっ!!」

 特戦隊が次々襲いかかってくる。

「ショート。女の子を袖にしたの?」

 ハッ、カトリナさんがちょっと怖い口調になっている!!

「いや、これには深い事情があるんだ。それに俺はトラッピアとは別に恋愛関係ではない。これは俺を陥れようとする策謀なんだ。つまり俺はずっとフリーだということだよ……」

 襲いかかる特戦隊を片手で捌きながら、カトリナへの言い訳をする。

「本当?」

「本当さ。俺は嘘は言わない。あまり」

 大きいやつの渾身の回し蹴りを手の甲で受け止めて、腕の回転で捻りを与えて跳ね飛ばす。

「ウグワーッ!!」

 もう一人の大きいのが口を開け、そこから魔力弾を吐き出してきたのを、真横へとはたいて落とす。
 中くらいの奴が跳躍しながら飛びかかってきたのを、かち上げるパンチでカウンターし「ウグワッ」奴が吹っ飛ぶよりも一瞬早く、二段目の突きを叩き込んむ。

「ウグワーッ!!」

「だからカトリナ、信じてくれないか」

「うん。ショートがそこまで言うなら……。ところでショート、すごく忙しそう」

「そうでもない」

 最後の小さいのが魔法を次々繰り出してきたのを、片手でぺちぺち叩き落としながら、一発の魔法を掴み取って投げ返した。

「ウグワーッ!」

 小さいのが倒れる。

「なんて化け物だ……! 我が特戦隊の攻撃を、右手一本で全て凌ぐとは……!! 便利な魔法だけの男ではなかったのか!」

 魔法は便利だから使っているだけであって、物理攻撃を本気でやったほうが強いに決まっているだろうが。
 俺のメインは肉弾戦だぞ?
 パワース情報を当てにしてはいけない。

 とりあえず、カトリナの機嫌は直ったようだ。
 トラッピア特戦隊とやらにはお帰り願い、ついでに記憶を消してやろう……。

 俺はニヤリと笑いながら、彼らに顔を向けた。

 だが、ここで注目すべき事が起こる。
 最初に俺がチョップで気絶させた特戦隊員が、むくりとかかとの力だけで起き上がったのだ。

『やれやれ、人間に化けていようと思ったが、それは叶わぬようだ。星の外で受けた手荒い出迎えの礼をしてやらねばならんな……!!』

 男は身構える。
 全身から放出する魔力が、特戦隊のそれとは段違いになる。

 こいつは、レベルが普通では勝負にならない相手だな?

「いいだろう。来い。だが俺からの返答は既に決まっている。お帰りください……!!」

 俺と、謎の特戦隊員とのバトルが始まる!