4. 紀子の病室にて

 面会室で私が待っていた時、医師が入ってきた。

 「先生、妻は大丈夫なのでしょうか?」と私が医師に尋ねると、

 「奥様は大丈夫ですよ。ただ、お腹の赤ちゃんは、残念ながら…」と医師は言葉を詰まらせた。

 「冗談は、よしてください!」

 「正直に申し上げます。残念ですが、奥様は流産されました」と医師は伝えた。

 私は悔し涙しか出なかった。


 私は妻の病室へ戻った。


 紀子が、三十分後に目を覚ました。

 「紀子、大丈夫か?」と私が聞くと、

 「ええ、私は大丈夫。私のことより、お腹の赤ちゃんは大丈夫だよね?」と紀子は言った。

 私が言葉に詰まると、

 「赤ちゃんは、元気だよね?」

 「紀子、許してくれ・・・俺が旅行へ行こうと言ったばかりに・・・」

 「嘘でしょ! 嘘に決まっている・・・ 私の赤ちゃんを返して!」と紀子は泣き叫んだ。
 
  一ヶ月後に紀子は退院をしたが、以前のような彼女の明るさに戻るのに、長い年月が必要であった。