何が?、と首を傾げる。


「そもそも店長は瑞希の店長でしかないのにいきなり友達に紹介なんて可笑しいもん」

「彼氏でもないのにね」

「で、でも顔合わせるぐらい」

「シャイなんでしょ? 仕方がないよ」

「まぁ私たちそんなことだと思ってたし」


確かに店長はシャイだ。最近店長の癖にフロアに出てこないのは恥ずかしいからじゃないかと思うぐらいにはシャイである。
それでも彼はもう直ぐ三十路になるいい大人でもある。そんな彼がそこまで人見知りをするだろうか。


「瑞希、本当に店長のこと好きなんだね」

「うん、好きだよね」

「自分で言うのか。でももしかしたら、店長が私たちと会いたくないのって逆にいいことかもよ?」

「……どういうこと?」


私からメニュー表を受け取った光里がくくっと意味深に笑う。


「普通一回りも下の女の話真に受けるかなぁって。いい大人だったら余裕持って流すくらいできると思うんだよね」

「……つまり?」

「つまり、店長は瑞希のことちゃんと意識してるからこそ私たちに会って囃し立てられるの恥ずかしがってるんじゃないの?」

私はその光里の言葉に口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
その間に頼むものが決まったのか、「フルーツパフェ!」「チョコレートブラウニーパフェ!」とそれぞれが食べたいものの名前を挙げた。


裏に戻ると厨房に桐谷先輩が入るのが見える。思わず勢いで引き止めた。


「桐谷先輩ぃいぃいぃ!」

「ウザい、マジウザい」

「そんなこと言わないで! 可愛い後輩の悩みを聞いて!」

「可愛い後輩なんて持ったことないからパス」


相変わらずツレない桐谷先輩は放って勝手に話を進めた。


「何で店長ってあんなにシャイなんですか? あれで社会やっていけてるんですか?」

「……」

「私の友達に会いたくないのって私のことが嫌いだから?それとも私のこと意識してるから?」


分かんないよ、と桐谷先輩の細い腕を抱きしめると一瞬引き離される力が弱くなった気がした。
そして頭を撫でられたかと思ったら顔を上に上げられ、力強く引き離された。


「知らない、店長じゃないから」

「酷い……」

「でもポジティブじゃない小野は小野らしく無くて何か嫌。更に鬱陶しい」

「……」

「元気出せよ」


桐谷先輩はそう言うと「で、注文は?」と首を傾げた。やっぱりこの人格好いい。