店長は「嘘は駄目だよー」と参ったように顔を手で覆う。私の将来の目標だから嘘を言っているつもりはないのだが。


「俺逮捕されちゃうよ」

「どうしてですか? 愛があるなら関係ないですよ」

「小野さん、何度も言うけどそういう問題じゃないんだよ」

「それとも、私のこと好きじゃないってことですか?」

「……」


そう言えば店長はピタッと動きを止めた後頭を左右に振り、「いや、ちがっ…」と途切れ途切れに言葉を呟くと私の肩から手を離した。相当体重を掛けられていたようでとても軽くなった。
店長は顔を上げるとコホンと一つ咳をした。微かに顔が赤い気がするが気のせいだろうか。


「とにかく、駄目だよ。勝手にそういう約束しちゃ。俺は会えないから」

「えー、ケチ!」

「ケチじゃないよ。ほらそろそろ時間でしょ」

「……」


何だこのイライラは。私は店長の言葉にむぅと唇を噛んだ。あれも駄目、これも駄目。何だったら店長は許してくれるんだろう。
そろそろフロアに、と私の肩に触れそうになった店長の手を咄嗟に払い除けた。

私に拒否られるとは思っていなかったのか、店長は少しだけ吃驚しているように見えた。


「知らない、店長のことなんて」

「お、小野さん?」

「大嫌い」