「へ?」

「多分合ってるか分かんないけど源氏物語の英語版なんじゃないかな」


店長の台詞に花宮さんと顔を見合わせた。


「小野、そうなの?」

「答え見てないんで分かりません」

「これかぁー?」


紅先輩がテーブルの上にあった薄い紙を拾い上げる。すると彼はそこに書かれた文字を見ようとして目元を細めた。


「……な、んだ。み、みな? みなも……」

「源氏物語だね」


紅これぐらい読もうよ、と蒼先輩が呆れたようにその紙を紅先輩と一緒に覗き込んだ。こう並んでみるとやっぱりこの二人って顔が瓜二つだなぁ。

て、そうじゃなく……


「えぇ! 店長すごーい!」

「え、いやいや! 何となく思っただけで……」

「ええっ、でも凄いです!」


店長ってば格好いい上に勉強も出来るなんて! これぞ極上の男じゃないか!
花宮さんと顔を見合わせた桐谷先輩はスマホを暫し弄るといきなり全く訳が分からないことを言い出した。


「店長」

「ん? どうしたの桐谷くん」

「Poor and content is rich and rich enough, but riches endless is as poor and winter to him that ever fears he shall be poor.」

「!?!?」


いきなり桐谷先輩の口から発せられた流暢な英語に更に休憩室がざわざわし始めた。
店長も相当だと思ったけどやっぱり桐谷先輩は帰国子女だけあって英語が得意なんだな。流暢すぎて何を言ったのか全く聞き取れなかったけど。

桐谷先輩何言ってるんですか?、と私が声を漏らそうとしたその時、店長が先に「桐谷くんどうしたの?」と、


「いきなりシェイクスピアの話して……」

「しぇ?」


しぇいく? 誰だそれ?、と紅先輩と共に首を傾げた。
すると桐谷先輩は少し難しそうに顔をしかめてスマホを戻すと、今度は店長の顔を見て聞いた。


「店長、店長って大学何処だったんですか?」

「え!?」


一気に店長の顔が困惑の色になった。なぜそんな色になるか分からず、私たちが店長のことを見つめていると彼は困ったように頬を掻く。


「別にどこでもいいでしょ。とにかく高野くんたちと小野さんは早くフロアに入って?」


そう言うと紅先輩たちは「しゃーねーなぁ」と渋々と腰を上げる。いや、貴方一番勉強していませんでしたよね?
しかし店長が話を誤魔化すように言ったので私はその話の先が気になって仕方がなかった。