それなのに、


「あんなに攻めても全然靡きませんねえ……」

「……」


花宮さんは何も聞かなかったふりをするようにして黙ってコーヒーを啜った。
店長にアタックを続けてかれこれ二ヶ月になるが進展は全くなし。華の女子高生が誘っているのに一回も靡いてくれないなんて……


「私が思ってた以上に、女子高生が魅力的じゃないのかもしれませんね」

「(女子高校生“じゃない”部分にはぐっと来てるような気もするんだけどな……)」


やっぱり、店長みたいな大人な男性の好みは大人な色気漂う女性なのかもしれない。
私が色仕掛けをしたところで興味も持ってくれそうにないし。

もういっそのこと、私から無理矢理襲ってやろうか。
そんなことを度々考えては本格的に嫌われる気がして諦めてしまう。


「小野はさー、なんで店長が好きなの? きっかけって聞いたことあるっけ?」


そう聞いてきた花宮さんに私はばんっとテーブルを叩いて立ち上がった。
突然のことに彼女が「え、」と身体を後ろへと引いた。


「よくぞ聞いてくれました!」

「ごめん、やっぱりいいわ」

「ちょっと! なんで聞いてくれないんですか!?」


こりゃ面倒なことになった、と彼女がため息混じりに呟いた。
これまで私は店長との出会いと、彼を好きになったきっかけを他の誰にも話してはこなかった。それは話してしまうと、私だけの思い出じゃなくなってしまうのが寂しかったから。

だけど本当の本当は、誰かに惚気たくて仕方がなかった!


「まあでも気になるし、聞かせてよ」

「是非是非! もう何回語ったって色褪せない私と店長のラブロマンスですよ!」

「多分ラブだと思ってるのは小野だけだと思うけどね」


その花宮さんの冷たいお言葉も今の私には届かず、私は胸をときめかせながらあの日のことを思い返した。