「困る……」

「……」

「けど、まぁ気軽に考えることにしたよ。小野さんいなくなるのは寂しくなるしね」


俺に気軽に考えるのなんて難しいかもしれないけど。
それを黙って聞いていた花宮さんは「そういえばですけど」と俺の話をぶったぎるように話し始めた。


「ちょっと未成年メンバー帰らすの遅れました。すみません」

「凄い勢いで話変わったね。皆一緒に帰ったんならこの時間まだ大丈夫だと思うし」

「そうですね……あ」


のんびりと話していた花宮さんはあることを思い出すと珍しく慌てた調子で言葉を運んだ。


「小野は少し倉庫の整理を手伝ってくれていたので他のメンバーとは一緒に帰ってないんですよ」

「……」


自分でも、どうしてここで声が出なくなってしまったんだろうって思った。
ただあの子が一人で帰ったってことを思うと一気に体が凍り付いたように動かなくなった。

が、それも一瞬のことだった。


「ちょっと俺、行ってくるね」

「て、店長?」


行くってどこに!?、と慌てた花宮さんに俺はちょっと微笑む。


「ほら、ここら辺電灯無いし、駅まで遠いから危ないでしょ。車で送ってくる」

「は、はぁ……でももう駅についているかもしれませんよ」


確かにこれはおせっかいかもしれないし。きっとそれはそれで安心すると思うし。
だけど彼女にもし何かあったとなると後悔するのは自分だと思うから。


「それならそれでいいよ、ちょっと見てくるだけだから」


鞄から車のキーだけを取り出すと事務室を出ようとする。


「あ、でも店長……」

「じゃあ! ちょっとの間お店のことよろしくね!」

「……」


そう言って早足で事務室を後にすると店の裏口へと足を進めた。
それを呆然と眺めていた花宮さんはまた呆れたように溜め息を付く。


「私が小野に連絡して大丈夫か聞けばいいだけなんだけどな」


まぁいいか、と珈琲を啜った。