まさか実はプライベートのスマホを持っていないとか? 流石にそれは店長でもない気がする。
一歩前進になると思っていたのになー、と残念に思っていると一人の厨房スタッフが休憩室に入ってきた。


「はい、晩飯」

「わーい、ありがとうございます桐谷先輩」

「どうも」


賞味期限間近の食材で作ったチャーハンを桐谷先輩が作ってきてくれたのだ。
彼は淡々とテーブルに二人分のチャーハンを置くと即座に休憩室から出ていこうとする。

それを止めた。


「桐谷先輩は店長の連絡先知ってます?」

「……知らないけど。というか今更?」

「そうなんですよー」


困りました、と言えば全く興味がないようで「ふーん」とだけ呟く。
きっと私たちとは関わりたくなかったのだろう。私が話しかけた瞬間、桐谷先輩から負のオーラが放たれた。

先輩は今日もクールでイケメンですな。


「あ、桐谷先輩の連絡先も私知りません」

「……」


そう口にした途端何かを感じたのか、桐谷先輩はそそくさ休憩室を出ていってしまった。
いや、別に教えてほしいとか言ってないじゃん。どういう反応ですかそれ。


「困りましたね」

「私は別に困らないけど」

「えー……って、花宮さん食べるのはや!?」


視線を隣に向けるとさっきまであったはずのチャーハンの山がすっからかんになっていた。


「考え込んでるだけ時間の無駄。分からないなら別のところから攻めればいいだけ」

「か、格好いい……!」


瞳姉さん! 瑞希、一生ついていきます!
花宮さんは最後の一口を口に入れると、「さぁ、仕事仕事!」と休憩室を出ていく。花宮さん今休憩入ったばかりなのに、本当に仕事熱心な人だな。

花宮さんに尊敬の意を向けると私もチャーハンを食し始めた。