これは、


「これは……困りますね」

「困るというか、この女の子のことが心配になりますよね」


蒼先輩の言葉に私はカードから視線を上げる。


「心配?」

「店員とお客様とでしか話したことがない相手に自分の連絡先を渡すとか……俺が極悪人なら悪用しますよ」

「あー……」


確かに、その気持ちは分からないわけでもない。

もしこの連絡先が蒼先輩ではなく他の男性に渡ってしまったとしたら、きっとその人は蒼先輩に成り済まし、その女の子と連絡を取るだろう。
そして蒼先輩が好きな彼女なら断れないということを前提に悪質な要求を送り、それを脅しに使い、その女の子を苦しめることになる。

そこまでのことを想像すると私は彼と同じく胆を冷やした。


「ど、どうするんですか!?」

「捨てますよ、シュレッダーに掛けて」


こればかりはどうにもならないですから、と彼は淡々と口にする。

それは何だか無視するよりもその子の気持ちをなかったことにさせられるようで私的には納得出来なかった。
だけどもし無くしたりして他の人の手に渡ったりしたらそれこそ大変になるし、仕方のないことなのだろう。


「すみません、小野さん。お手数をお掛けてしまって」

「あ、全然です!」


慌てて返事をするとその会話を聞いていた紅先輩が頭を掻く。


「お前の方からもなんか言った方がいいんじゃねえか? そうじゃないと聞かないやつもいるだろうし」


お、紅先輩が珍しくいいこと言った。確かにこのままだとこの子は同じことを繰り返してしまうかもしれないから。

だけどそれでも私は何かが胸に引っかかってしまっていた。