私がさっきまで悩みに悩んでいた原因の人物がそこにいたからだ。おかしいな、まだシフト時間じゃないはずだけど……


「高野先輩!」


そう背中に声を掛けると、"彼ら"は同時にこちらを振り向いた。

そして、


「「どっちの?」」

「あ、……蒼先輩の方で」

「あぁん? ややこしいんだよチビ!」

「チビじゃないですよ!」


私から見て右側にいた焦げ茶髪のその男性は鋭いその目付きでこちらを睨む。
同じアルバイトメンバーの高野紅先輩だ。


「こら、小野さんは悪くないでしょ。ややこしい俺らが悪いんだから」


そう言って私のフォローに回ってくれたのは先ほど私が名前を呼び掛けた高野蒼先輩。
同じく焦げ茶髪の髪の毛をした蒼先輩は紅先輩に対して凄く柔らかい優しい目を向けてくれる。

私のアルバイトしているファミレスで働く高野先輩は双子なのだ。
どちらも女性からおモテになる容姿をなさっていて、同じ職場に働いている私でもたまにどちらがどちらか分からなくなる。

優しく私のことをフォローしてくれた蒼先輩とは対照的に短気な性格の紅先輩とはよく意見がぶつかることが多い。
そんな彼の態度に唇を尖らせていると蒼先輩が話を聞きに私のところまで歩いてきてくれた。


「で、小野さんは俺になんか用がありましたか?」

「あ、そうなんです渡したいものがあって!」


二人は私の一つ上、高二なのだが蒼先輩は歳下の私にも敬語を使う。蒼先輩がタメ口を使っているところを見るのは兄弟の紅先輩と話している時だけだ。
ずっと前にその理由を尋ねてみたことがあるが、「まぁそれはまた今度」と天使のような微笑みではぐらかされてしまった。


「なんだなんだ?瑞希の癖に蒼にラブレターか?」

「いちいち五月蝿いよ、紅。さっさと仕事入りな」

「シフトまだだしー」


じゃあ何で来たんだ、と突っ込みたくなるのを押し込んで私は手に持っていた先程のラブレターを蒼先輩に差し出した。いや、結局ラブレターなんだけど。
しかしそこは流石蒼先輩。私からのラブレターではないということには気が付いたらしい。

が、それに対してこの男は。