それでも、


「あ、小野さん」


逃げる前に向こうに気付かれてしまったので私はその場で固まる。
彼の純粋そうな目に見つめられて、まるで脚が石のように重くなり、逃げたくても逃げられなくなった。


「て、店長……」


何でだろう、前まで店長を見てもこんな変な気持ちにはならなかったのに今はなんでこんなに逃げ出したいなんて考えてしまうのか。
私は店長に背を向けると休憩室に駆け出した。後ろで「小野さん!」と呼ぶ店長の声。それでも振り返る訳にはいかない。

と、そんな私の目の前に現れたのは、


「桐谷先輩!」


出勤してきた桐谷先輩を盾にするように後ろに回り込む。
先輩は「なに?」と不服そうにしていたが「待って!」と私を追い掛けてきた店長を見るとその原因が分かったのように納得してくれた様子だった。


「あ、桐谷くん。こんにちわ」

「……」

「ちょ、無言で小野さん庇うの止めて! 流石に傷つく!」


私は桐谷先輩の後ろに隠れると焦ったように誤解を解く店長を見据えた。
桐谷先輩は私のことを庇いながらはぁと深く溜息を吐く。


「店長、流石に未成年に手を出すのは……」

「出すわけないでしょ!? 俺、どれだけ信用無いね!?」

「(出すわけない!?)」


それはそれで凄くショックだ。それにじゃあこの前のことは一体何だったのかと問い質したい。
店長のイケメン野郎!、と声をあげて慌てている店長の隣を通り抜ける。彼が「小野さん」と手を伸ばしたがそれは桐谷先輩に防がれたようだ。

自分からはもう近づくなって言ってきたくせにどうして話しかけてくるの!?


「(店長の馬鹿!)」


もう私にはどうしたらいいのか分からないよ。