「(どこまで、触られるんだろう……)」


今にも心臓が飛び出してしまいそうなくらいドキドキしてる。だけど先ほどの私の言葉に間違いは一つも含まれていない。
私はこくりと頷くとぎゅっと瞼を瞑った。


「大好きな店長になら、私……」


そう心に決めて、彼に全てを捧げる覚悟を決める。
すると彼が短く息を吸ったあと、ゆっくりと私に近付いてくる気配がした。


「もう、どうなっても知らないからね」


最後に耳に届いた掠れた声。こ、これってもしかしてキス!?
自然と唇に力が入る。しかし唇には一向に何かが触れることはなかった。


「(あ、あれ? 何か様子が……)」


おかしいような……、そう私はゆっくりと瞼を開く。
すると知らぬ間にワイシャツに着替えて更衣室から出ていこうとする店長の後ろ姿を見つけた。

店長!?、と声を上げれば彼はしまったと言わんばかりに顔を青ざめた。
もしかして、私がずっとキスされると思って瞼を閉じていた間に着替えを済ませ、外に出ようという目論見だったのか!?


「店長酷い! 最低です!」

「え、えー……だってもうこうするしかないかなって思って」


そんな困ったような可愛い表情をされても私の怒りは収まりませんよ! 乙女の純粋なハートを弄ばれたのだ。
私は勝手に彼の行動を本気にしてしまった自分への恥ずかしさと騙された怒りで顔が真っ赤になった。